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第115話

引越しが一段落し、真田との至極の生活が始まった。 目を覚ますと真田がいる。知らなかった仕草や、行儀良く眠る姿にまだまだ知らない真田がいることを知り嬉しくなる。 そして気がかりだった職場への住所変更の提出だが、我社の社員は皆、我関せずの姿勢に感服する。それはそれで有難かった。 この歳で男と住むと言うだけで根も葉もない波風が立つ。真田の心中を思えば清藤は些細なことでも不安材料は潰していきたかった。 人を気遣うなんてことは、在り来りなこと以外が本当は大切なのだと初めて知った。 その人への思いが強ければ強いほど、不安と隣り合わせなんだと言うことも。 真田が不安に思うことは、未然にどうにかしたい。 どんな真田でも愛おしいが、不安気な顔は見たくはなかった。 人事部での手続きを終え、エレベーターで五階へと急ぐ。先に真田を住所変更に行かせたことは正解だったと思いながら人事部の前を通り過ぎようとした。 開けっ放しの部屋の中に見たこともない異様な光景がみえる。 総務、人事、営業、営業企画の部長達が頭を揃え深刻な顔つきで何やら覗き込んでいる。 入社して随分経つがこんな光景は見たことがなかった。 一瞬の瞬間を見逃さなかった二宮と視線がぶつかる。 何か閃いたのかと思うくらいに険悪な表情からいつもの優しく嬉しそうな笑顔を見せて手招きをした。 「ちょうどいい所にきた。ちょっと来てくれないか」 部長達が覗き込むその輪に引きづり込まれた清藤はテーブルの真ん中に広げられたFAXとパソコンの画面に映る映像を見て愕然とした。 「これは……なんですか?何が起こったんです?」 「タイ工場の火災だ。ほぼ全焼」 高井部長がお手上げだと言わんばかりに手のひらを天にむける。 「火災、ですか?」 「やばいよな……うちの自社製品はタイが軸だ。ここでこの火災は大打撃、大損害だよな」 いつもの余裕は感じられない切羽詰まった二宮の言葉に会社の危機までもが頭をよぎる。 「怪我人も出てるみたいだ。上層部が慌ただしく動いてる。全社員の中から何人か出向しなきゃんないよね」 自分には関係ないとでも言いたげな高井の科白に苛立ちを覚えながら清藤は二宮の顔色を覗き見た。 「確かに、向こうにいる日本人だけでは対処出来ないだろうな。全社に向けての動きがあるだろう」 二宮はちらりと清藤を見た。何か言いたげな視線に息を飲む。 「とりあえず、社内で英語が話せる社員をリストアップしといて。まあ出来ない人間のほうが少ないだろうけど、堪能な奴を上げといて」 返事を返すと同時に二宮の腕が清藤の肩に周り、廊下へと誘うように足を向けた。

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