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第117話

部署社員はいつも通り慌ただしく働いている。 大きなプロジェクトが始動している今、各自しなければ行けないことが山積みだ。 席に戻った清藤は真田の姿を探した。壁に掛かる比較的大きなホワイトボードには何も書かれていない。 はて?と思いながらも視線を落とし目の前の画面を見つめメールチェックを始めた。 火災の状態はどうなっているのかが気がかりだが、今しなければいけないのはリストだ。 工場火災は大打撃で、これからの製品が当面入ってこない、つまりはこのプロジェクトも危うくなる。 我社は海外で生産した自社製品を自店舗で販売している。それは関東だけの展開であり、大半は他社と契約で成り立っている。その自店舗を拡大し、先日真田が大口契約を済ませた企業との連携で、全国展開することになった。 フロアを見渡し、海外担当組に目が行く。 海外担当組は既婚者が多い。しかも女性が多くそのうち独身者は二名。とりあえずこの二人はリストに入れておこう。責任者である成田主任は既婚者だが仕方あるまいとリストに付け加える。 すれば、デクス前で影が動き視線を向ければ真田が真剣な眼差しで立っていた。しかも顔色が良くない。 「どうした?顔色が良くないな」 「課長……火災処理班、決まったんですか?」 「それ、どこからの情報?」 「……常務です」 「常務?……なんで常務?」 「先程、呼び出されました。俺、火災処理班の責任者っぽいです」 「ど、どうゆう事だ?」 いきなり立ち上がった清藤にフロアの動きが止まる。普段声を荒げない自分達の上司の慌て方に空気は緊迫する。 我に返った清藤は大きく深呼吸をし、フロアを見渡した。 「実はタイ工場で火災が起きた。そこで本社から火災処理に数名、いや数十名行くことになった。志願してくれる者が居れば申し出てくれ。申し訳ないが独身者を優先で選ばせてもらう。期間はわからないのでそのつもりで。都合も配慮する予定だが個別に聞く時間がない。メールで送ってほしい」 静まり返ったフロアは事の事実を飲み込む前に挙手が上がる。 「課長、行きますよ」 「私も行けます」 「私も……」 既婚者は外す予定ていたが、そんなことは皆、会社に勤めている以上関係ないのかと思う程の志願者がいた。 「挙手ありがとう。とりあえず行ける人はメールください」 真田に顎でいつもの場所に促さずと、清藤はフロアを後にした。 その後を重い足取りで真田は着いていく。 重厚なガラス張りのドアを押し開け、階段を駆け上がる。外の空気は湿度を含んだ蒸し暑さが清藤を包んだ。

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