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第119話

リスト制作には二宮の指示の元、進められた。 本社から15名。その内、営業企画部から5名。「真田は必ず」という何故だかムカつくメールに清藤はあえて丁重に返信をした。 常務命令と二宮からのメール。上司からの命令ではあるが何故かモヤモヤが残っていまう。 そんなことを思ってる場合ではないが、何故か引っかかる言い回しに取れるのは清藤の感覚が変わったからなのだろうか。 真田のお見合いの日、心配して様子を見に来てくれた。元カノが亡くなった時も同様にそばにいてくれたのは二宮で信頼している人間だ。 だが、この真田との関係についてはどうだろう。何も二宮は関係ない。直接的なことはなくても、見合い話は二宮の口から聞いた。疑い始めればどこもかしこもが信じられなくなっていく。 今回のことも常務の判断だとしたら二宮も従うしかないのだが、二宮の本心は清藤と真田の関係を好ましく思ってはいないのかもしれない。 取り越し苦労なのかもしれないが清藤の心中はモヤモヤが残っていた。 「現地処理班、明日出発だって?どれくらいで終わるんだろうねぇ」 喫煙スペースで高井部長が呑気そうに清藤に話しかける。 相変わらず我関せずな態度には慣れたが、営業部からも五名行くと聞いている。早急に帰ってきてもらわないと業務に支障が出るのはお互い同じだろう。 「予定は一ヶ月の予定らしいですよ。早く帰ってきてもらわないと地方視察の予定も入ってますし」 「そうだよねぇ。清藤君も真田君がいないと困るだろうしぃ」 どこまでの情報を知っているのかを探るように横目でちらりと清藤を見る。あえて見えていないふりをした清藤は凛とした態度で応える。 「彼は企画では必要な人材なんで、居てもらわないと困ります。それは高井部長も同じですよね?まだ真田は営業部と兼任ですから」 移動になってもまだ取引先の引き継ぎを終わらそうとはしない高井に反論する。 「あそこは真田君じゃなきゃダメなんだよねぇ。彼はモテるからねぇ」 モテるの意味が違うと思う反面、それくらいはいいだろうと圧をかける高井に嫌悪する。 自分の利益を優先する態度に虫酸が走るが何を言っても無駄だ。『糠に釘』なのだろう。 「なになに?俺も仲間に入れて下さいよ」 長い足を存分に活かし階段を駆け上がる二宮に先程のモヤモヤが復活し、清藤は大きく溜息を吐く。 「いやね、真田を返してくれって清藤君に叱られてたんだよねぇ」 二宮より頭一つ小さい高居は張り出した腹を撫でた。 「そうですか。でもそろそろ真田を企画の仕事に専念させてやってください。この処理が終わったらの区切りでお願いしますよ」 仕立てのいいスーツの内側からタバコを取り出すと骨ばった長い指を煙草に絡ませる。 「二宮君も一人の生活長くなったよねぇ。そろそろいい人はいないの?」 真田の話を勝手に打ち切るのはまだ帰すことはしないという意味か。 狸の騙し合いのような会話と二人の部長に挟まれ清藤の心とは反対に澄み切った青空を見上げ、紫煙を吐き二度目の溜息を隠した。

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