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第120話
明日出発の彼は、 一ヶ月分の荷物をスーツケースに押し込んでいる。傍で清藤はその様子をぼんやりと見ていた。
貴重面に衣類を畳み収めていく。彼のクローゼットはいつも整理整頓されていて気持ちがいい。
その几帳面な性格は冷蔵庫の中にも現れている。
最近料理を頑張ってくれている真田は、週末には作り置きなるもの沢山作り、平日はメインを作るという技を習得した。
作るものはどれも素朴で凝ってはいないが優しい味がする。真田は喜んで食べる姿を見て楽しむという幸せを清藤からもらっていた。
「友さん、インスタントばかりじゃダメですからね。言わないと食べずに終わりそうだし。ちゃんと食べてくださいね」
「分かってるよ。お前が心配しないようにちゃんと食べる」
視線を絡ませれば清藤の瞳の不安を探ろうとしてしまう真田はその頬にそっと触れる。
「俺、頑張ってきますから。待っててください」
「待ってるよ。それより元希も誘惑に負けないように」
「なんの誘惑?」
「タイの女性は綺麗だから」
「仕事に行くんですよ。それに友さん以外に興味ないし」
「現地の社員の誘惑に……」
「そんな心配はいらないよ。友さん、不安なら不安って言って?俺は裏切ったりしない」
裏切られた過去がある真田が裏切るなんてことは思ってはいない。ただここにいない寂しさがどうしても心配の裏返しになってしまう。
「友さん、ずっと会えないと不安になるのは当たり前だよ。俺だって心配だし不安だし。でも今はどこでも顔を見て話せる時代だし、仕事では毎日報告の電話をする。ホテルに帰っても必ず連絡するから。それとこれだけは約束して。二宮さんをここには絶対入れないで」
「わかった。約束する」
準備の整ったのを見終わると、その手は清藤へと伸びてくる。毎日こうして抱き合っていても、明日からこのスキンシップさえないと思うのは寂しい。依存しないようにと言ったもののもう手遅れなのかもしれない。
何かあったらすぐに連絡して。声聞くだけでも安心だから」
「わかってる」
「友さん、愛してます」
「俺も」
「ちゃんと」
「俺も愛してる」
言葉にすると寂しさが増す反面その言葉は呪文のように染み込み安心を与えてくれる。
こんなふうに人を想い続けることは大変なことであって幸せなことだと清藤は彼の温もりを感じていた。
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