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第122話

 十五名の社員が会議室に集まり、これからの日程を常務から聞いていた。わざわざ常務がと清藤は思っていたが、事が事だけに当たり前と言えばそうなのかもしれない。  ズラリと並んだ十五名の背中を会議室の隅で眺めている。 頭一つ大きい真田の背中を無意識に見つめてしまう。まるで今から特攻へ出陣するような様(さま)が清藤の寂しさを増長させていた。 「タイからの報告で工場火災はデモとは無関係ということだが、タイ情勢はあまりよくない。夜間外出禁止令も出ている。何かあれば本社連絡を忘れないように。タイ支社の溝田部長の指示の下、よろしく頼みます」  ぞろぞろと幹部役員がドア付近に並び先頭に立った常務は十五名一人一人に挨拶を交わし始める。異例の出張の激励なのだろう。  それに習い、役職者が列をなす。本当に出陣式のようで、もう帰っては来ないような錯覚が鈍く蘇ってくる。重い足取りで清藤もその列の最後に並んだ。  自分の部下を激励している上司。他部署の社員にも笑顔を向ける。結局うちの部署からは三名行くことになった。是澤、三村、そして真田。真田の古巣、第一営業部からは宗宮が行く。真田が行くならと宗宮が名乗りをあげたらしい。二人は同期で仲がいい。真田からもよくその名前を聞いていた。 「真田君、体調管理しっかりとな。生水はダメだぞ。こっちのことは気にせずよろしく頼むよ」  と、二宮の声か聞こえる。その言葉尻が気になり目で追った清藤は、硬く握手を交わしている真田の目が笑っていないことに苦笑した。 「清藤課長!真田と力を合わせて頑張ってきます!俺、感無量です!」  意味の分からないことを呟き、清藤の手を両手で力強く握りしめた宗宮は今にも泣きそうに涙を浮かべている。 「ちょっと意味がわからないけど、頑張って」 「もう、最高です!」  どういうテンションなのか首を傾げた清藤をその後に続く真田が笑った。 「あいつ、課長の信者ですから。清藤課長行ってきます」  握り締めた手から真田の温もりが伝わってくる。見つめられた瞳に押さえ込んでいた感情がマグマのように押し寄せてくるのを感じる。ああ、この手を離したくないと心が叫ぶ。 「れ、連絡を忘れないように」 「はい」 ゆっくりと離れてく感覚に離れたくないと指先に力を込めた。 たった一カ月だというのに、この感覚はなんなのだろうか。  亡くなった彼女との最後の別れが残像として残っているからだろうか。何もかも無くなってしまうような空虚感に襲われる。  廊下に並べたキャリーケースをゴロゴロと引きずる音が木霊のように清藤の耳の奥に残った。  

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