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第124話
案内されたのは、バンコク市内にある歴史を感じさせるビジネスホテル。
どこもかしこも年月を感じさせるホテルではあったが、整った感じは従業員の接客に出ていて好感と安心が持てる。早速チェックインを済せ、1カ月間過すことになる部屋の確認もせずに支社へと向かう。
出迎えてくれたのは四十代中半という感じだろうか。小柄で物腰のやわらかなタイの責任者である溝下部長と四人の社員。
温和な印象なのだが、 何故か違和感を感じた真田は、それがなんなのかと思いながらの打ち合わせが始まった。
火災現場の画像を見せられた処理班十五名は火事の規模に愕然とする。
大きな倉庫の屋根が中央部分辺りからざっくりと落ち、むき出しのままの状態が生々しく火災の凄さを物語っていた。
「この建物はもう解体作業に取り掛かっています。なに分時間がないのが現状で、納期を遅らせることは損害に繋がることはお判りだと思いますが……実際のところ、全てが一からという……本当は皆さんが来て下さってどうにかなるというレベルの話では無くなってきているのが現状で……」
まるでお手上げだと言わんばかりに到着間なしの処理班に対し、テーブルを囲み話し始めた溝下は音を上げたことを言う。その額には滴りそうなほどの汗が滲んでいた。
ことの重要さは充分理解している。
今はどうにもならないと嘆きたい気持ちもわかるが……
それをどうにかする為に日本から十五名はやってきたのだ。
このような火災を想定していたわけではないが、タイだけに集中していた製造は今期から分散され、中国など五カ国で製造ラインが始動されている。打撃は大きいが大打撃で二進も三進もいかない訳ではない。
切羽詰まった状態の溝下部長は本社からどれ程の情報を得ているのか疑問に思う節が出てきた。
(どうなってんの?頼りない感じかするのは……)
真田は打ち合わせが始まって間もなく溝下への不信感を持ってしまった。不信感、いや違和感だ。それは溝下の目線にあった。どの社員とも目を合わせないのだ。宙を彷徨う目線。それが何を物語っているのかが、この会議の本性なのだろうと見えてくる。
ここに自分達を呼ぶにあたり、これからの策を的確に指示されるものだと真田は思っていたが、一から始めるのは処理班の仕事だという事だ。
いきなり泣き言から始まるとは思ってもみなかった真田は火災の状況よりも愕然とした。
起きてしまったことは事実だが、会社が損害を被らない為にも、いかに迅速に動くかが勝負だと思いタイまでやって来た。
少ながらず選ばれた他の社員もそんな心構えでここに来たと思っている。
動揺が広まる会議室で、ぽつりと宗宮が口を開いた。
「それで溝下部長、私達はどのように動けばいいでしょう。お役に立つために来たんです。遠慮せず自分の部下だと思って指示してください」
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