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第126話
ホテルまで送ってもらい、是澤、宗宮と別れた後、部屋に入るなり荷物も置かずパソコンの電源を入れた。
今日、タイ支社に出向く前にキャリーケースからパソコンだけ取り出していた。
もちろん私物のパソコンだ。何時でも清藤と連絡が取れるように事前準備は完璧だった。
窓際のテーブルに買ったものを置き、ソファに座った真田は早速スマホを取り出した。
時計を見れば十八時を指している。
日本時間は二十時だ。まだ会社にいるかもしれないが、とりあえず業務報告をする為に会社に電話をする。
呼び出し音が二回なる寸前で音が切れ、女性の声が聞こえた。
「お疲れ様です、真田です。清藤課長はまだいらっしゃいますか?」
『お待ちください』といつもながら素っ気ないが、もう慣れてしまった真田は何も思わなかった。
『代わりました清藤です』
「お疲れ様です。真田です。今大丈夫ですか?」
耳元で真田の声が聞こえる。それだけで清藤は体温が上がった気がした。
今朝別れたばかりだと言うのに、フロアに真田の姿がないだけで今日一日どこか寂しく、穴が空いたような感覚に戸惑い、気持ちは沈んでいた。
今日の報告を一通り終えると、真田の声色が変わった。
『友さん』
そう名前を呼ばれただけで嬉しくて泣きそうになる。
こんなことでは1カ月、いや延びるかもしれない出張の間もつのだろうか。
『友さん、何時に家に着きますか?一緒にご飯食べましょう』
気持ちの昂りで真田の言葉はテンポをずらして脳が判断をする。
「一緒にって……」
フロアを見渡せば帰り支度をする部下の様子に小声になった。
『毎日なるべく時間を合わせて顔を見ながら食事をしましょう。今日あったことも聞いてほしし』
真田なりの優しさに胸が締め付けられる。便利な時代は離れた場所にいても恋人達を逢わせてくれる。
「わかった。じゃ一時間後に」
『はい、待ってます』
今日終わらせなければならない仕事はもう終わっている。真田の電話を待っていたようなものだ。
職場で報告を受けたい。そして二人の家では恋人としていたいと思っていた。
遠距離での生活の間は、会社を離れプライベートは真田だけを感じたい。
真田の気遣いで遠距離恋愛はこんなにも近く、離れ離れではないんだと清藤は心染みる嬉さだった。
電話ではなく毎日顔を見ることができることを実感する。そう思うだけで胸が弾んだ。
清藤の感情は忙しく真田に揺さぶられる。
だがそれは嬉しい揺さぶりで、足取りも軽い。今日一日の沈んだ気持ちは一気に上がっていった。
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