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第128話

繋がったスマホからの声よりも、早く真田の顔が見たい。  パソコンの前に座った清藤はアプリが繋がるのを待った。  そして映し出された画面の向こうに今朝別れた真田が映る。それを見た瞬間鼻の奥がツンと痛くなり涙を誘った。    1日も経っていない。今日一日顔を見なかっただけだというのに、こんなにも真田が恋しい。  こんなことではこの先が思いやられる。  『俺の恋人は寂しがりやだから』と言われたことを思い出した。  何もかもお見通しで、真田にはなにも隠せそうにはない。 『あれ?友さんお風呂入ったの?』  画面越しなのに髪がまだ揺れているのが分かったのかと髪を触った。 「長くなったら面倒になるから』 『長く……そうだね、沢山話したい』  風呂に入るのが面倒なわけではない。真田を感じたまま眠リたいと思っていた。画面越しでも長く繋がっていたいと思った感情が言葉に出てしまい赤面する。 『寂しかった?友さん』 寂しかったに決まっている。今日一日気分は上がらなかった。 「そうだな」 「ちゃんと言って?友さん。離れてるんだから言葉にしてくれないとわからないよ?」  真田はこうやって言葉を聞きたがる。大の大人が泣き言を人に言うなんんてと、清藤の生い立ちからはあり得ないことだった。 それでも言葉にしないと伝わらないことは分かっている。お見通しであっても伝えないと分からない。 言葉にしないといけないことは過去からの経験で学んでいる。 「……寂しかった……フロアにお前がいないだけでこんなに寂しいとは思わなかった」 『そう……俺も寂しかったです。ここに友さんがいたら楽しいだろうなぁって思うと堪らなく寂しかった。だから一緒にご飯を食べようって思ったんです。名案でしょ。ところで友さん、何買ってきたの?」   素直に寂しいと言える画面越しの真田を見つめていた。どこに居たって自分のことを考えていることが嬉しくて堪らない。 言われたまま弁当を持ち上げて真田に見せる清藤の瞳はゆらゆらと揺れた。 「ありがとうな……俺は幸せだよ。元希」 画面に映る真田は何やら辛そうな色の物を見せながら動きが止まる。 『どうしたの?友さん?何かあった?』  「こんなに幸せでいいのかな……バチが当たりそう」 『バチなんか当たらないよ。幸せって言える友さんが俺は好きです。だからもっといっぱい言って幸せになりましょう』 手を合わせる真田は待ちきれない様子で清藤が手を合わせるのを待っている。  その姿はいつもと変わらない。画面越しだというのにこんなにも近く幸せを感じている。 真田の何もかもが愛おしくて抱きしめたくなった。 「……一カ月我慢できるかな……」 大口で頬張る真田は瞳を合わせながら、何度か頷き、咀嚼を繰り返すと大きく飲み込んだ。 『俺だって我慢してるんだから、友さんも頑張ってくださいよ。寂しくなったらすぐ電話です。社用のフリしてかけてきてください』 「お前、上司にそんなことよく言えるな」 『あ、すいません、課長」  視線を絡ませ笑い合う。幸せの形なんて人それぞれ違う。清藤には見つめてくれるその視線だけで幸せなのだ。  いつもと変わりのない夕飯に加え、溝下に対する愚痴を延々と聞かされる間中、清藤は身に余る幸せを感じていた。

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