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第130話
パッと弾けた声と溢れそうな笑みは清藤を驚かせた。
タイで何があったのかと思わせる真田の表情に清藤はなんとも言えない複雑な気持ちになる。
「今日ね、昼に皆と出かけたんだけど、そこでさ、なんとこんな異国で高校時代の同級生にばったり会ったんだ。一瞬誰だかわからなかったんだけど懐かしくて、そいつと明日は観光しようって話してて」
清藤といる時は、いつも穏やかで落ち着いた印象なのだが、今、画面の向こうにいる真田は少し幼く見える。
傍にいる時は、無理をしているのではないかと心配になる。
「友さん?疲れてるよね……ごめん」
「いや、大丈夫。元希が嬉しそうだから……久しぶりの再会なんだから楽しんでおいで」
スラスラと大人ぶった科白は口を吐く。本音はどこのどいつでどんな関係だったのか、聞きたい気持ちはある。
真田は元々ノーマルで男を恋愛対象に見たことがないと断言している。同性でも心配はいらないのだが、どうしても気になってしまう。どこででも人を惹きつける真田は心配で仕方がないのは、彼の仕事を代理でしたことで明白だった。
「高校の時に、同じ陸上やってた小林っていうやつなんだけど、イケメンなのにオタクで全然モテなくてさ、大学中退して海外を放浪してるんだって。カメラにハマって写真ばかり撮ってるって言ってたんだぁ。タイも詳しみたいだから……」
これも真田の優しさなんだろうと清藤は感じている。懐かしんで話しているわけではない。清藤が心配しないように出かける相手の情報をさらりと伝えてくれる。
同じ部活をしいて、イケメンでオタク。小林という人物は写真が趣味だということ。清藤に心配させないようにと気遣ってくれている。
付き合い始めてから週末はいつも二人でいた。
同僚と飲みに行くのは金曜の夜と決めていて、学生時代の友人とは疎遠になっているのかと思ったぐらいだ。
自分を優先してくれている。職場も家も同じで、一人の時間はないと言っていい生活だ。たまにあった友人と会うくらい、ましてタイにいる間ぐらい羽を伸ばしてもいい。男を誘う魅惑の場所にさえ行かなければ。
真田の話を聞きかがら、ささくれ立ちそうだった心は穏やかになっていった。
「その写真見てみたいな。実際見て感じた写真はいいだろうな」
「そうだね。友さん、いつか二人でここに来たいね。今回は観光なんてする余裕はないけど、仕事抜きで友さんと旅行したい」
二人で共感できる旅行がしたい。どこだっていい。二人だけの思い出が欲しい。いつか懐かしく話せる楽しい思い出が。
「元希は俺といて無理してないか?」
「どうしたの?急に」
「上司と付き合ってて窮屈な思いとか……してないか?」
いきなりの問いかけに真田の顔から笑みが消える。そして刺すような視線で見つめてくる。まるで清藤の意図するものを探るかのように。
「窮屈なんて思ったことはないよ。それに最初は上司の清藤課長に憧れてた。でもいつの間にか好きになってて、今は清藤課長と付き合ってるなんて思ってない。俺は清藤友海って人と付き合ってる。無理して付き合ってなんかない」
「ごめん、変なこと聞いた」
「確かに、会社にいるときは尊敬する上司だよ。オンとオフは使い分けてるつもりなんだけど……そんな風に気を遣わせてたらごめんなさい。でも、俺は友さんが好きでずっと一緒にいたい。無理してたら続かないから」
「うん、わかってる。俺も一緒にいたいよ。ただ、同級生の話をしてる元希の表情がいつもと違って見えたから……」
「え?そう?使い分けてないから!」
「そうなんだってわかった……ごめんな」
「そうか、そうだよね、俺こそごめん……」
気まずい空気が流れ始めたその時、画面の向こうでけたたましく真田のスマホが鳴った。
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