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第131話
画面越しに話している真田をぼんやりと見つめていた。
手短に会話を終えた真田はまた清藤と向き合う。
「ごめんね、話してる途中で。小林だった」
数分のことでも仲が良いのだということは伺える。
この半月、真田達は全力で頑張ってきた。責任者として責務を果たし、気が抜けていることもあるだろう。
それでも清藤の心中は穏やかではなかった。
忙殺される仕事は関係ない。彼らは休みを取らず頑張ってきたのだから、休暇が必要なことも承知している。上司だからこそ労ってやらなければいけないことも。
ただ、自分以外の人間と楽しそうな真田を見るのは穏やかではいられなかった。
こんなにも人を愛すると心が狭くなるのかと自分の感情に戸惑ってしまう。
楽しんでこいと言いながら醜い感情が渦を巻いている。
「明日、久しぶりの再会楽しんでくるよ」
清藤の様子がおかしいことに真田自身、感じていた。
だか、真田の中ではいつか清藤と来る日のための下調べだと思っている。
自分がリードして清藤と楽しむ為だと思えば、小林との休日も楽しいはずだ。
気持ちはすぐにでも日本に帰りたい。会社の指示であるがゆえ仕方なく従っているだけだ。
自分の世界は清藤で廻っていると自負せざるを得ない。
それならば小林を利用と言う表現は悪いが、清藤とここにまた来る日の為に、お勧めのポイントを聞くつもりでいた。
明日は土曜。日曜の午前中にはタイを経つことになっている。会社の経費でタイに留まるのだから、束の間の休暇を土産話にもしたいと思っていた。
「友さん、ごめんね」
「なんで謝んの?」
「俺だけ遊びに行くし……」
「いいよ、謝んなくて。頑張ったんだからゆっくり休暇取ればいいよ」
真田に気を遣わせてどうするんだ。恋人でも年上なのだからと心の中で葛藤を繰り返した。
画面から消えた彼に「ごめん」と清藤は謝った。
こんなに束縛して先にあるものと言えば……そう考えてゾッとした。
お互い尊重し合わなければ、きっと気持ちは冷めていく。そう、真田の気持ちが離れていくということだ。
「束縛体質」というフレーズを聞いたことはある。まさか自分がそうだとは思ってもみなかった。
少し離れてみるのもいいのかもしれない。たかが二日間ではないか。
毎日離れていてもこうやって自分との時間を作ってくれる優しい恋人の為にも、自分もそうあるべきだ。
早速スマホを取り出し、真田にメールを送った。
『さっきはごめんな。週末だから疲れが溜まっててぼんやりしてた。俺は明日寝倒すけど、気にせず楽しんでこいよ』
お気に入りのファンシーなスタンプを押せば既読はすぐに付いた。
寝倒すといえば気を遣って連絡はしてこないだろう。
(元希、楽しんでこいよ)
画面に向かいそっと呟けば、『ありがとう』と『愛してる』の可愛いスタンプが同時に送られてきた。
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