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第133話

澄みきった青空が窓一面を埋めつくしていく。 ベッドのヘリに背を預け足を投げ出し、ぼんやりと朝を迎えた清藤は、カチカチと微かな音をたてる壁時計の針を見つめていた。    一度も連絡はなかった。もはや真田のスマホは呼び出しさえしない。  この感覚は味わったことがある。真田と付き合い始めて遠い過去となった彼女の時とよく似ている。   あの朝もこうやって繋がらない電話に不安に押し潰されそうになった。 遠い異国からの連絡は遅く、彼女が永遠に眠りについた翌日に知らせがきたのだ。  もう会えない絶望感と、同じ指輪をした違う誰かを選んだ彼女に、何故?と問うしかなかった。 愛する人と手を繋いだまま眠りについた彼女は幸せだったかもしれない。だが何も伝えられなかった清藤の心はボロボロに壊れていった。    今は互いに愛する真田がいる。この関係がいつまでもずっと続いて欲しいと切に願っていた。   連絡がないということは、何か起こったということだ。日頃の彼はスマホの充電は必ず確認していた。そんな真田が充電をし忘れるということは想像し難い。   ならば、何故連絡が取れないのか。何かが真田に起こっているとしか清藤は考えられなかった。  腿に放り出した掌を見つめる。薄まりつつある感触に握りしめたそれを胸に押し当てた。   『元希……』  力の抜けた身体はその場所から動けない。そして最悪の事態ばかりを考える思考に押し潰されそうになる。  そんな時、そばに置いていたスマホが音を立てて鳴った。 拾い上げ画面を見る。そこには『二宮』の文字。 (元希じゃない……) 肩を落とし、重い指で画面をスライドした。 『おはようございます』と覇気のない声で応える。 『友、支度しろ。タイに行くぞ』 挨拶もない唐突な科白に、清藤は言葉を失った。 「……どういうことですか?」  こんな風に慌てている二宮を今まで見たことがない。それに是澤ではなく何故二宮から電話がかかってくるのか? 何故タイに……? 『今朝、溝下部長から真田と連絡が取れないと連絡があって、その後警察に問い合わせてくれたらしい。ペッチャブリーに向かう途中で事故に遭ったみたいだ』 「……さ、真田は?誠治さん!真田……生きてるの?」 『勝手に殺すな。正確な情報がないからタイに行くんだ』 「どうしよう……俺、一人で行けない……」 『しっかりしろ!真田はお前の部下だろうが!連絡のない部下の安否を確かめに行くんだよ。心配しなくてもいい。俺も一緒だから。二十分後に迎えに行く。家に入るなって真田に釘を刺されてるからな。外に出て待っててくれ』

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