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第134話

タクシーに乗り込む清藤の様子に、二宮は驚きを隠せなかった。 目の下に隈をつくり覇気がない。こんなに落胆した清藤を見たことがなかった。普段の清藤から想像し難いあり様だった。 以前付き合っていた彼女の時とはまるで違う様子に、どれほど真田への想いが彼の中に秘められているのか計り知れない。 空港へと向かうタクシーの中、ぼんやりと座る清藤を宥めるように、癖のない柔らかい髪を撫で肩を抱きしめていた。 今週、二宮は常務のお供でタイ視察の予定だった。 処理班の行動に常務は感銘し、新工場への同行を二宮に命じていた。 まさかこんな事態になるとは思わなかったが。 早朝、常務は自分の代わりに清藤を連れてタイに行けと指示を出した。 直属の上司は清藤だ。 最悪のことを考えれば清藤を連れていくのは妥当だと判断するのは当たり前だった。 溝下の話では、対向車か居眠り運転をし衝突した。その後の事は分からないと嘆いていた。 悲しい結果ではないことを祈り、清藤に電話をしたのだ。 スワンナプーム空港まで約六時間ある。 飛び立ったことを確認し、二宮は隣に座る清藤に声をかけた。 「昨日、寝てないんだろ?まだまだ時間はある。少し眠っておいたほうがいい」 乗務員にブランケットを借り清藤に掛けてやる。 「誠治さん……奥さんといつ別れたの?」 唐突な質問に驚いたが、清藤には誤魔化すつもりはない。何時だって二宮は弟のように可愛い清藤にだけは真摯に向き合ってきた。 「ああ、高居部長が言ったからか?別れてはない。別々に住んでるだけだ。彼女は今、仕事で関西にいるからな」 「そっか。お互い尊重し合える関係なんだ……俺ね、元希に依存し始めてるっ気付いて……こんなの良くないって思ったんだ。でも、いるのといないのとでは違う。どこにいても元気でいてくれないと……生きていけない……」 「そうだな。時間を共有できなくても元気でいればなんだってできるからな」 二宮の返事に清藤は小さく頷いた。涙を隠したいのだろう。瞳を閉ざしゆっくりと顔を背けた。

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