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第137話

二人きりになった病室で清藤と真田はお互いの体温を確かめるように静かに抱き合っていた。 言葉を探しても当てはまるものがない。恐怖から安堵に変わる温度差に、ただ真田を感じることで平穏を取り戻そうとしていた。 「心配かけてごめんなさい。友さん、不安にさせちゃったね……」 申し訳なく呟いた真田は、しがみつく清藤の背中を優しく撫でた。 いなくなるかもしれない恐怖に耐え、生きていくための支えを取り戻した安堵は計り知れない。 断る為の見合いでもあんなに不安になる。 昔の彼女と重ねてしまうことも仕方がない。もうそんなことはどうでもよかった。 ここに真田がいる。それだけで清藤の心は穏やかになっていく。 「俺より先に死んだら許さないから」 「……うん」 「毎日顔見ないと不安になるから」 「うん」 「もう、こんなのは嫌だ」 「うん……ごめん」 「生きてて良かった。本当に……」 憔悴しきった姿を見た時、真田はどれくらいの不安と孤独感を与えてしまったのかと後悔した。 いつも凛としている清藤が、我を忘れ髪を振り乱して駆け寄ってきた。 反面、なりふり構わず必死になる程の清藤の愛を感じ、こんなにも愛されているのだと堪らなく愛おしいと思ったことは言わずに心の奥に仕舞った。 「いつか、二人で来ようって話した矢先にこんな形でタイに来させてごめんね。もう心配かけたりしない。友さん、不安で死んじゃいそうだから」 「死ぬよ。お前がいなくなったら俺は死ぬ。だから覚えといて。俺はお前がいないとダメなんだってこと」 「肝に銘じとく。俺も嫌だし。やっぱり二人でいないと」 「身体……痛むか?」 「全身打ってるからね……」 「元希……早く日本に帰ろ。俺達の家に帰ろう」 真田に依存し始めていると気付き、それはいけないことだと思っていた。だがここに来て違うことに気付いた。 共に生きていくために必要なのだ。お互いを敬い、時には上司として叱咤することもある。それでも恋人である以上、お互いが必要だと想いは深まっていくものだ。依存して何が悪い。自分には真田が必要なのだ。 何度も唇を重ね、その存在を確認する。触れる唇は温かく真田を確かめさせてくれた。 突如、清藤のスマホが病室に鳴り響く。 舌打ちをした清藤は自分が何をしにタイに来たのかを画面を覗き、我を取り戻し背筋を伸ばす。 常務の代理での新工場の視察という役目がある。それが終われば二人で日本に帰ることができる。 真田の手を握りしめ、スマホを手に廊下へと急いだ。 待たせては悪い相手からの電話に清藤は課長の顔を取り戻した。

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