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第138話

一緒に居たい離れたくないと我儘に暴れ回る感情を抑え込む。 自分に与えられた責務を果たさなければいけない。責任感の強い清藤の苦渋の決断を真田に伝えた。 「常務からだった……俺はさ、今夜はここにいたいんだよ。元希と離れたくない。でも今の俺は見境なくお前を襲いそうなんだよな。病院にいれば安心だし、ホテルに泊まることにするよ」 ベッドの脇に立った清藤は、真田を見下ろして淡々と伝えてくる。先程までの感情的な清藤はどこに行ったのかと思うほど冷静に淡々と告げた。 「……友さん?」 「自分に言い聞かせてんの!仕事なんてほっぽり出してお前と居たいよぉ。でも早く終わらせなきゃって……俺は、楽しみは後に取っとく……タイプなんだよ!」 支離滅裂な清藤に唖然とし、真田は勢いよく吹き出し笑った。 いつもの清藤は、確かに楽しみは後にするタイプだとは思う。 感情のコントロールができないほど、清藤を揺さぶっているのは自分なんだと嬉しくなる。 声を上げて笑う真田に、ああ、これだと清藤はつられて笑みを取り戻した。 タイで友人に再会した時の真田の表情を思い出す。自分には向けられないと思っていた素顔の真田の笑顔にほころんでしまう。 「仕方ないよね。こうやってタイに来させてくれた常務に感謝して働かないと。頑張ってくる。無理せずここで療養してて」 「うん。心配かけてほんとごめんね。来てくれて嬉しかったぁ。友さんの笑った顔を見たら、なんだか元気が湧いてきた。仕事、終わったら一緒帰ろ。俺達の家に。それに……思いっきり友さん抱きしめたい。今は襲われても応えられそうにないから」 自分に向けられる真田の想い。真田はちゃんとここにいる。抱きしめたいと言ってくれる。それだけでムクムクとやる気がみなぎってくる気がした。 病院に泊まることはなく、後ろ髪を引かれながら病院ロービーで待っていた二宮と共に、ホテルへと向かった。 「真田、酷くなくて良かったな。保険諸々の手続きはしておくから。真田は帰ったら昇格の内示がでるぞ。友も頑張らないとな」 終始上機嫌であった常務は、真田に一目置いている。我社に必要な人材だと清藤との電話でも話していた。 「病院の費用は俺が出しますから。手続きよろしくお願いします」 「友、もう、大丈夫か?」 タクシーを降り、ホテルのロビーで二宮は恐る恐る尋ねてくる。 「もう大丈夫。真田を早く連れて帰りたいから明日からガンガン働きます」 「友は強くなったなぁ。もう俺は、お役ごめんかな?」 「強くなんかなってませんよ。まだ、ふぁふぁした感じが抜けてないし。それに誠治さんは大切な人ですよ。今までもこれからも。ただ……真田は必要なんです。俺にとって生死に関わるほど……」 「……じゃ、大事にしないといけないな。友に、なくてはならない人が出来たことが俺は嬉しいよ。ちょっと寂しいけどな」 「今までと何も変わらないよ。俺は誠治さん大好きだし」 「……そうか」 大切な人と必要な人。清藤の中のカテゴリーはそんな風に分かれているのかと、線引きされたような寂しさがあった。 きっと、出会った時から清藤の中ではそんな位置づけなのかもしれない。 家族のような親友のような。それでも二宮の寂しさ指数は上がった気がしていた。 翌日、タイ支社に二宮と共に出社した。 清藤の的確な指示の下、三日間のスケジュールが組まれた。二宮の一言に対するその判断力に社員達は驚愕する。 昨日、取り乱した清藤を見ていた常磐は、本来の清藤の見て驚きを隠せなかった。 「常磐さん、昨日はすみませんでした。お見苦しい所を見せてしまって」 スマートなスタイルに整った顔。昨日の取り乱していた清藤とは全く違う。 常磐は今日の清藤の完璧さに見惚れてしまっていた。 噂では聞いていた。やり手の営業企画部課長。敏腕だと溝下も一目も二目も置いている。 その部下の真田もやり手なはずだと概念を持っていた。真田の行動力は清藤の指導の賜物だと思っている。 「いえ、真田さん、大事にならなくて良かったです。視察後、一緒に帰れそうな感じですか?」 緊張からか、声が上ずってしまいそうになる。 「勿論、連れて帰りますよ。真田は営業企画部にはなくてはならない社員なので」 常務の受け売りな返事を常磐はぼんやりと聞いていた。 昨日の人物と同じ人なのかと首を傾げたくなる。幻でも見たかのような感覚に戸惑った。

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