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第139話

運転を再開した新工場への視察の後、近くの屋台で遅い昼食を済ませ、二宮は溝下と出かけるため別行動となった。 「部長、真田に会いに行ってもいいですか?」 「いいよ。今日の友はいつもにも増して素晴しかった。真田の所でゆっくりしておいで」 ぱぁっと花が咲いたように清藤の表情は明るくなる。その度に二宮は、子離れしないといけないような感情にまた寂しくなる。 「ありがとうございます。誠治さんも気をつけて出かけてね」 自分を心配する言葉に二宮の気分は少し上がった。清藤に一喜一憂する自分に苦笑する。 「ありがとう」 清藤はすぐにでも真田の元に飛んでいきたい気持ちを抑え、そわそわと支社を後にした。 「清藤課長、真田さんの所へ行かれるんですか?」 道路脇でタクシーを拾おうとした時、誰かが清藤に声をかけた。振り返れば、帰り支度を済ませた常磐が立っている。 嫌な予感がした。 「私もご一緒してもよろしいですか? 」 やっぱり。 それでも嫌な顔はできない。同じ会社の社員だ。真田も世話になったと聞いている。 だが、この後は二人の時間を過ごしたい。その為に今日の業務を全力で頑張ったのだ。 「ど、どうぞ。一緒に行きましょう」 そう言うしかなかった。『今から二人で過ごすので』なんて言えるわけがない。嬉しそうな常磐がタクシーを止め、何故だか二人で真田の所へ向かうことになった。 「真田さんの様子を伺ったら帰りますので……」 真田のことを心配してくれている常磐を無下にするわけにはいかない。 もう、課長の鎧を脱ぎ、真田の元にいきたいと思っていたが、まだ暫くは無理だと溜息を吐き、シートに体を預けた。 「お疲れになってらっしゃいますよね。昨日、顔色が良くなかったですし……」 「昨夜はゆっくり休んだので大丈夫ですよ。真田のこと気にかけてくださってすみません」 「いえ……あの、お二人って、プライベートでも仲良くされてるんですね……二宮部長も親しそうでしたし、本社の社員さんは皆さん仲がよろしいんですね……」 膝に乗せた鞄を見つめた常磐は、何か思い詰めた感じに見える。 真田は部下であって恋人だ。二宮は昔から知っている良き理解者だと、常磐に話す義務はない。全てプライベートなことだ。 「そうでもない人もいますが……真田は可愛い部下ですし、二宮部長は尊敬する上司なので……良くしていただいてます」 「羨ましいです……清藤課長、お願いがあるんです。私を本社に引っ張って頂けませんか? 清藤課長の下で働きたいです。真田さんと仕事がしたいんです。やり甲斐ある仕事がしたいんです」 どうやら常磐は自分達の関係性より、同じ社員としての自分達を見ているのだと、清藤は何故か複雑な心境になった。

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