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第144話

二宮との電話を終え、嬉しそうに抱きついた清藤と唇を合わせた。 段々と深くなりそうな気配はお互いの熱で感じる。清藤は求めて蕩けた顔を見せるのに真田の身体を想い、自制するように身体を離した。 「友さん?」 「脚が治ったら、いっぱいしような。それまでの我慢だから」 甘く合わさった唇から蜜の 糸を引き、欲しくて堪らない顔を見せる。 頭では優しく清藤を抱くことができるのに物理的に真田の身体では思うように清藤は抱けない。 昼間にシャワーを浴びた時、無数にある青痣に清藤は眉を寄せた。 触れるのが怖いほどの痣を傷つけないように、ここに真田がいる奇跡に涙を浮かべながらそっとその身体を流した。 そして数日ぶりにスッキリとした背中を愛おしそうに清藤は唇を這わせた。 そんな清藤の様子に抱きたい感情が熱を帯びて真田を苦しめた。二週間清藤を抱いていない。本当なら一週間後には思いっきり抱くはずだったのにと辛さが増す。 「友さん、抱きたい」 「足が治ったらいくらだってできるから」 お互いに煽らないように熱を沈めて理性を保とうとする。それでも求めてしまう。唇を合わせば欲しくなってしまう。 この禁欲生活に頭を抱えたくなる。 「治ったら頑張ってもらうから。覚悟していてよ?」 可愛い顔で微笑んで、音を立てて合わせるだけのキスをした。   このジレンマに理性はどこまで持つのか。最悪の恐怖を追い出すためにも抱き潰すくらい我を忘れることが清藤には必要なのにと肩を落とす。 膝から降りた清藤は、コロンと寝転がり長い溜息吐いた。そして投げ出した脚にぴったりと背中を添わせ再びスマホと遊び始める。 真田もふぅっ〜と、欲を逃がす溜息を吐き、転んだ清藤の髪を名残惜しそうに撫で、サイドテーブルに置いてあったパソコンを膝に置いた。 真田は少し前から思っていたことがあった。この家の裏側にはガレージがある。中は見たことがないがスペースがあるなら車を買おうと思っていた。 出かけるのに電車もいいが、二人で色んな所に行ってみたい。 海や山、日本には綺麗な場所が沢山ある。 運転は高校卒業以来、実家に帰った時にしか乗ったことがないペーパードライバーだか、さほど大きくない車なら運転することはできる。 清藤には休養が必要なのかもしれないと感じている。 自分に出来ることは全てしたいと思っていた。 開いたパソコンで検索を始めようとしていた時だった。 「なあ元希、話があるんだけど」 背を向けていた清藤はゴロンとこちらを向き、パソコンに視線を向けた。 「なに?車買うの?」 「うん。欲しいなぁって思って。友さんとドライブしたいなぁって」 暫く画面を見つめた清藤はムクリと身体を起こした。 「話って何?」 胡座を掻き、向き合った清藤はベッドにスマホを置いた。 「俺さ、お前の住んでた所に行ってみたいんだ」 突然の話に真田は驚いた。真田の実家は何もない田園風景が広がるドがつく田舎だ。 都会暮らしの清藤は驚くだろうが、いつかは連れて行きたいと思っていた。 「いいよ。行こう!なんにもないけど空気は美味しいかも。やっぱり車買うよ」 パソコンに手を伸ばそうとした時、清藤の手が伸び握り締める。 「お前が気に入るかわからないけど、ガレージに二台、車がある。爺さんの車だけど。もう乗ることないって俺にくれたんだ。 ここは都心から少し離れてて利便性がいいだろ。混雑した道が少ないから俺もよくドライブしてたんだよ。いつか……休みの時、連れて行ってくれないか?……それと、今回の事故の事、お前の実家にも連絡してあるんだよ。外国での事故だし。元気な姿見せてあげたらって思ってる。今からでもいいから、連絡だけははしといたほうがいいと思って……」 言い淀む清藤の瞳は揺れて息を詰めている。また最悪の恐怖が顔を覗かせていた。 「友さん、俺は成人してるし社会人だから、連れ戻されることはないよ。それに嫌って言っても友さんの傍を離れる気はないから」 視線を絡ませた彼はほっと息を吐いた。握り締めた手を引き、腿の上へと誘った。恐る恐る跨った身体を抱き締めた。 こんな些細な事で顔を覗かせる敵は清藤の心に根を這わせている。 「そうだ。友さん、俺の家族に会ってよ。紹介したい」 「それは……」 「俺の大切な人だって紹介したいなぁ。友さんの気持ちと相談してからだけどね」 「実際……上司で、まして男の恋人なんか歓迎されないよ。でも育った環境、見てみたいんだ」 どんな結果が出ようと清藤と離れることは一切ない。 どれだけ反対されようが自分の人生だから生きたいように生きる。 両親には 『人に迷惑かからなければしたいように生きたらいい』と、自己主張と自立を叩き込まれた真田はなんの迷いもなかった。

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