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第150話
営業企画部からテキパキと指示を出す清藤の声が響き渡る。
真田のギブスも取れ、大きなプロジェクトが動き始め多忙を極めていた。
そんな中、急な呼び出しがあり、真田は常務の部屋の前に立ち大きく深呼吸をしていた。
緊張と不安が交じり合う表情には、呼び出されるという事態に戸惑いの色は隠せない。
気を決してノックをすれば中から『どうぞ』と返事に、三度目の深呼吸をして、ドアを開けた。
窓際に置かれた重厚なデスクの先に陽の光を背負った常務が座っている。
視線を感じ、壁際に目をやれば二宮が立っていた。
「真田君、脚の具合はどうですか?」
常務というこの人は社長の身内ではなく、叩き上げでこの地位に就いた人だと社内では知らない社員はいない。
二宮と差程歳も変わらないが落ち着きがあり自信に満ち足りたオーラがある。
「ご心配お掛けしまして申し訳ありませんでした。ギブスも取れまして通院も終わりました」
「そう、それは良かった。
では本題ですが……タイでは本当によくやってくれてありがとう。君のことは溝下部長から報告を受けています。
我社は能力のある社員は年齢に関わらず仕事の幅を広げてもらいたいという社長の理念があるんですが……来月付で営業企画部主任にということになりました。
どうだろう、いずれは我社支える柱になってもらいたいと思っているですが」
丁寧な口調と鋭い眼力に威圧感が半端ない。どうだろうと聞かれても会社の命令は絶対だ。
言われた言葉を反芻した。呼び出しは昇進の内示だったのだと強ばる肩の力を抜けていった。
入社して二年しか経っていない。そんな自分に役職が就くとは思ってもいなかった。
「主任、ですか?……ありがとうございます」
「君は入社して二年だったね。たった二年でも君の功績は役員全員一致で可決だったんだよ。清藤君と力を合わせて頑張ってほしいと思っています」
隣に立つ二宮をちらりと見れば笑顔で頷いている。
「そこでですが、君にはタイ支社と兼任という形での昇進になるのですが……来月付でタイ支社の常磐君が営業企画部に配属になる予定ですので、君と常磐君のこれからを邁進を願っています」
「はい、精進してまいります」
常磐が日本に帰ってくる。何度も聞かされた彼の希望は通ったのだと、自分の事のように嬉しかった。
そしてタイとの兼任。清の耳には当然入っているはずだ。
聞いた時の清藤の心情は大丈夫だったのだろうかと不安になる。
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