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第152話
清藤の選んだグラスにはシュワシュワと気泡が浮かんでいる。
グラスをカチンと合わせ、苦味を含んだ液体がするすると喉を通る。
「ビールって最初の一口が上手いよね」
半分ほど飲んだ清藤は、フゥーっと息を吐いた。
「ほんとに。仕事終わった後のビールは最高」
視線を絡ませれば嬉しそうに清藤は微笑んだ。
事故に遭ってから不安定だった清藤も今は安定している。不安と恐怖に怯えたのはあの日々は二人の絆を深くするものになった。
心身共に落ち着いた清藤に、もう不安にはさせないと心に誓っていた。
不慮の事故に合うことだってある。
予期せぬ不運に見舞われることも。
それでも、清藤を恐怖に晒すことはしたくない。
こんなにも人を大切にしたいと思ったことは今までなかった。
なりふり構わず、その人を守りたいと思ったことも。
男だからとか、上司だからとか、そんなことは関係ない。誰になんと言われようが清藤が幸せでいればそれだけでいい。
憧れから始まったこの恋を何よりも大切にしたいと心から思っていた。
望んで求めてくれるのであれば全身全霊で受け止めていきたい。
自分の作った料理に舌鼓を打ち、甘く微笑んでくれる清藤が愛おしくて堪らない。
可愛く微笑み、時には課長の顔を見せ、それでも真田を見つめる瞳は紛れもなく愛情を含んでいる。
やっと先日、脚の治療も終わり待ちに待った週末。
今夜こそ、清藤と甘い夜を過ごしたい。
数日前から身体はむずむずと熱を帯びている。
まるで初めての経験ようなソワソワと真田の胸の内は落ち着かない。
タイ出張から脚の完治まで二ヶ月半。
日本に帰ってきてから一緒に眠る清藤に何度欲情したかわからない。
脚が治るまでは絶対にシないと清藤の意思は固く、蛇の生殺し状態だったのだ。
初めての経験のようにドキドキソワソワするのも仕方がない。
「どうした?元希。食欲ないのか?」
指を動かす仕草や、口元に物を運ぶ仕草。清藤の一つ一つの動作が甘い痺れとなりドクドクと脈を打つ。
食べる仕草は夜の営みを連想させ、熱を持ち始めた身体は食欲よりも性欲が勝っていた。
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