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第2話

 ちょうど父親の一周忌に、船便で届いたその品は、ひどく奇妙な形をした置物だった。 「祈りを捧げることで、百日間の魂の浄化をへて、必ず望みをかなえる……?」  吉原結太(よしはらゆいた)は木箱から、厳重に梱包されていた七十センチ程度の、木と鳥の骨を組みあわせて作られた細長い木像を取りだした。  人間の腕ほどの太さのそれは、全体に楔型の彫刻がほどこされ、頭に乳白の頭蓋骨が組みこまれている。てらてらと黒光りしていて、何か不思議なパワーを感じさせる品だった。  一年前に、再婚相手の義母と共に交通事故でこの世を去った父は文化人類学の研究者だった。アフリカ文化の、特に宗教や呪術を専門とし、その分野では名も知られていた。  この荷物の送り主は父が死んだことを知らなかったのか、それとも荷物がどこかで滞っていたのか。命日に届いたことに結太は不思議な巡りあわせを感じながら、手紙に書かれていたことをもういちど読み返した。 「非常に魔力の強い品である、と」  かるく栗色に染めた髪を揺らして首を傾げる。今年二十三歳になる結太は、中性的と言われるゆるふわな童顔をしかめて、不気味なオーラを放つ木像を観察した。  亡くなった父はよく、結太にアフリカの魔術について話をしてくれた。あの広大な大陸の奥では今も呪術が日常的に使われ、人々は精霊や先祖の霊と共に暮らしているという。黒魔術に白魔術、祈祷や供儀が普通に行われる世界に、結太はいつも不思議な畏怖を覚えたものだった。  しかしここは現代科学あふれる日本国である。明るい電灯の下でよく見てみれば、怖ろしげな呪術道具も珍しい民芸品でしかなかった。  そのとき、台所のオーブンから焼きあがりを知らせるかるい電子音が聞こえてきた。   「あ、いけねっ」  手紙と木像を、オープンキッチンに設置されたカウンターの上におくと、結太は台所に入りオーブンからグラタン皿を取りだした。  焼きたてのチーズの香ばしい匂いがキッチンに立ちのぼる。 「よし、いい感じ」  熱々を受け皿にのせて、結太はテーブルに運んだ。  ダイニングの四人がけテーブルには、グラタンの他に鶏唐揚げや生春巻にパエリア、手作りケーキにアルコールなどが用意してある。

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