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第3話

 両親が死んでから、結太がひとりで暮らしているこの3LDKのマンションに、今日は兄の宗輔(そうすけ)やってくる予定だ。彼のために結太は仕事先の幼稚園から帰ってから、台所にこもって得意の料理の腕をふるっていた。  亡くなった義母から家事一般を教わっていた結太は家の仕事が好きで、それが長じて今は幼稚園教諭の職についている。手先も器用、やりくり上手、子供のあしらいもうまいということで、同僚からは『吉原先生が一番主婦に向いてる』とも言われていた。  時計を見れば、午後九時少し前。そろそろ彼がやってくるころだと思いつつ、結太はまた、独り言をもらした。 「あの木像に祈れば願いが叶うってこと?」  カトラリーをひきだしから取りだしてテーブルにおく。そうしながらカウンターの像に目をやった。叶えたい望みはいくらでもある。特に今の結太には、どうしても叶えたい大きな願いがひとつある。  結太はエプロンの前だれ部分で手を拭いて、木像をカウンターに立てかけた。 「試しにやってみよっかな」  受取人の父はもういない。これはもしかして父からの贈り物だったりして。結太の憂いを心配した天国からのプレゼントなのかも。  白魔術の方法など知らない結太は、何となく手をあわせて、アフリカ奥地に生息する精霊に願いをかけてみた。 「どうか、宗輔さんとの不仲が解消して、今よりずっと仲良くなれますように」  パンパンと柏手を打って頭をさげる。こんなもんで祈りが届くものなのかと半信半疑の祈願だった。 「日本語で祈って、アフリカの精霊に通じるのかな。でも、父さんは、精霊は言語じゃなくて祈った人の心を読み取るって、確か言ってたよな」  呟きながら、年代物の民芸品をしげしげと眺める。  そこにインターホンの電子音が鳴った。 「あ、きたっ」  結太はいそいそとインターホンの受話器を取りあげた。 「はいっ!」 「俺だ」 「あっ、宗輔さん。待ってました。あいてますよ。入ってきてくださいね」  結太は急いで残りの料理をテーブルに並べた。ほどなく背後でダイニングの扉があき、モデルのように見栄えのいい男が入ってくる。

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