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第5話

 宗輔は、母親の再婚にずっと反対していた。十四年前の両親の結婚以来、結太たちと打ち解けたことは一度もない。高校卒業までは共にここで暮らしていたのだが、その間も結太はまともに口をきいてもらえたことがなかった。 「せめて今日ぐらいは、機嫌直して、仲良くしてくれませんか。俺たち、たったふたりの兄弟なんですよ」  それに宗輔は、整った眉をよせた。 「お前と仲良くする義理はない。用がそれだけなら俺は帰る。忙しいからな」  踵を返して、ダイニングをでようとした宗輔の腕を掴んで引きとめる。 「宗輔さん、天国の親父たちも悲しんでますよ。俺らが仲良くしないと。だって、お母さんだって、いつも宗輔さんのこと気にしてたんですから」 「気にしてた親が、子供を捨てて、でていくものか」  掴んだ腕を振り払われる。 「あいつは自分の幸せだけを欲しがって、勝手に家をでていったんだ。そうして新しい男を見つけて結婚した。お前の親父とな。けど、それはもう俺には関係ないことだ。親が死んだ今はお前とも他人。弟みたいな顔するな」 「そんな。せっかく家族になれたのに」 「家族」  冷淡に呟く。結太はめげずに宗輔の腕を掴んだ。 「じゃあせめて、食事だけでもしていきません? 俺、宗輔さんのために、宗輔さんの好きなもの、いっぱい作ったんです。ほら、見てください。グラタンに海老も入れたんです。海老好きでしたよね?」  海老のグラタン、という言葉に、宗輔が一瞬だけグッと顎を引く。しかしすぐに表情を変えた。 「夕食はすませてきた」  そうは見えないが、宗輔は口を引き結ぶ。 「一口だけでも、味見していってください。自信作なんですよ」  宗輔が鬱陶しそうな目で見おろしてくる。 「しつこいな。何でお前はいっつも俺にそうやって世話焼きの主婦みたいに構ってくるんだ。縁も切れたんだし放っておけばいいだろうが」 「放っておけませんよ。だって、宗輔さんのこと、心配なんですから」  宗輔はここから三駅離れた場所でひとり暮らしをしている。そして彼は料理をしない。きっと外食ばかりなのだろう。前に会ったときよりもまた痩せた気がする。仕事柄、忙しくて自分の時間などほとんどないに違いない。いらぬお節介だとはわかっているが弟としては心配だった。

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