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第7話

「え?」  あいたドアの前で、結太は立ちどまった。 「えなにこれ?」  四角い箱の中の光景は、にわかには信じがたいものだった。  白い電灯の下、まるで溶けたかのようにぐにゃりと床に広がった宗輔の背広。その脇に通勤鞄。そして服の中には。 「ふみゃあ」 「え」  泣き声がした。  恐る恐る箱にのりこみ、服を見おろすと、もぞもぞと動くシャツの襟から、小さな、ほんの小さな赤ん坊が顔をのぞかせていた。 「ええ、ええ? え?」 「ふみゃああ」 「ええええええ」  あたりを見渡すも、宗輔の姿はない。一体どういうことか。これは何なのか。  オロオロとエレベータの中や外をいったりきたりしていたら、そこに仕事帰りの男の人がやってきた。エレベータの周りで挙動不審に動く結太に訝しげな目を向けてくる。 「あ、どうもすいません」  とりあえず、意味もわからないまま邪魔になるといけないと思い、荷物と服と、その中の物体を手にしてエレベータをおりた。  チン、と軽快な音を立てて上昇していく箱を見送りつつ、茫然となる。 「一体これどういうことなの……」  腕の中で芋虫みたいに動くものを、もういちど確認する。それはやっぱり赤ん坊だった。しかも生まれたてらしい。真っ赤な顔で目もあいていない。手も足も折れそうにか弱く、頭もほぼハゲだ。職業柄、一歳くらいの赤ん坊は世話をしたことがあるが、これはどうみても手に負えるような代物ではない。 「宗輔さん……どこいっちゃったんですか。これは何なの」  手に抱えた宗輔の私物には、靴に靴下、下着もある。しかもまだ温かい。  服の中にこの赤ん坊がいたということは、本人は全裸でどこかにいったことになる。彼に何が起こったというのか。 「あ……。え? いいっ?」  手に生温かな感触を覚えて、服を持ちあげてみれば、背中から水がもれてきていた。 「って、水じゃないしこれっ」  まじか、と大慌てて抱き直して、荷物と一緒に階段を駆けあがった。部屋に戻り、玄関先に赤ん坊をおろす。 「ちょっと、待ってて」  洗面所からバスタオルを持ってきて、赤ん坊を包み直した。 「あでも、またすぐにもらしちゃうよこれ」  アワアワとなりつつ、宗輔に連絡を、と考えてスマホを取りにダイニングにいく。急いで宗輔に電話をかけるも、呼びだし音は宗輔の濡れた背広からしてきたのだった。

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