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第8話
「えええ。どうしよう」
この子は一体誰なのか。宗輔の隠し子か。それとも彼がエレベータで産み落としたのか。
「エレベータやタクシーで間にあわずに産んじゃう人って結構いるからな。さっき顔色も悪かったし……いやいや、宗輔さん男だし」
混乱しすぎて、何がなにやら訳がわからない。しばらく廊下をウロウロしていたが、そうしていても埒があかないことに気がついた。
「警察に持っていくか。でも、その前に宗輔さんに事情をきかないと。もしかしたら彼の子供かもだしな」
おいていったのには何か理由があるのかも。
「とにかく、紙オムツあてないとやばいことになる」
仕方なくバスタオルの赤ん坊を抱きあげて、居間に財布を取りにいった。
季節は早春。二月の末だった。結太はコートをはおって、その中に赤ん坊を入れて家をでた。鍵はかけないでおいた。全裸で戻ってきた宗輔が家にすぐに入れるようにと。幸い歩いて十分の所にドラッグストアがある。まだあいていることを願いつつ、早足で店に向かった。
店は閉店五分前だった。急いで紙オムツコーナーまでいき、新生児用を手にする。赤ん坊を抱いたまま会計をすませていると、三角巾を頭に巻いて白いエプロン姿のレジのおばさんが、何とも言えない奇妙な顔をしてきた。
「生まれたばっかりじゃない? その子」
「はあ、多分」
おばさんは目を見ひらいた。
「タオルなんかでくるんで。ちゃんと服着せてあげなさいよお父さん」
「はあ」
お父さんじゃないんですがと訂正する余裕もない。
サッカー台に移動して、バスタオルの赤ん坊をおいていたら、おばさんがレジを出て近くによってきた。どうやら彼女の母性本能を刺激してしまったらしい。
「早くおしめあててあげて」
バスタオルの上で全裸の赤ん坊が寒そうに震えている。結太は慌てて紙オムツの袋を破いてあけた。
「あらああ!」
おばさんが悲鳴に近い声をあげる。みると、また赤ん坊が噴水をあげていた。
「おしりふきおしりふきっ!」
「ああ、買ってないですう!」
おばさんが走って売り場までおしりふきを取りにいく。赤ん坊が寒くて泣きだす。もうパニックだった。
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