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第9話

 紙オムツをあてて、売り場の新しいバスタオルで包んで会計をすませて店を出ようとしたら、「ミルクはあるの?」ときかれた。 「ああ、ないですっ」  そしてミルク缶も買い足して、疲れ果てて家へと帰った。  しかし宗輔は戻ってきていなかった。 「どうなっちゃってるの」 「ふにゃあ、ふにゃああ」  赤ん坊が腕の中で泣きだす。仕方なくミルクを作ろうとして、哺乳瓶がないことに気がついた。買い忘れた。日ごろ仕事で赤ん坊は相手にしているはずなのに混乱しまくっている。  もういちど店にいく気力はなかったので、ミルクを作ってチャック式ポリ袋に入れた。底にほんのちょっと穴をあけて、赤ちゃんの口許へとあてる。赤ん坊は口をふるふる動かして、ポリ袋に吸いついた。 「……はあ、よかった」  どこの誰の子かは知らないが、手にしてしまった以上、世話をする責任はあるだろう。親の許に返すまでは何とかしなければ。  明日の朝までに宗輔が戻らなかったら、この子は警察に届けるか。それとも宗輔がくるまでは面倒を見るべきか。彼も自分も、頼れる親戚は近くにはいない。 「まあ……明日の朝にまた考えればいいか。それまでには宗輔さんもさすがに連絡くれるだろ」  ぐったりしながら夕食をすますと、料理の残りを密閉容器に移して冷蔵庫に入れた。宗輔に食べてもらえなかったことを残念に思いつつ、赤ん坊を抱っこしてどうしたら仲良くなれるのかなあと考えた。  十四年前、結太の父と義母が再婚したとき、宗輔は義母ではなく実の父親と暮らしていた。けれど、不幸なことに宗輔の実父は、義母の再婚したその日に病気で亡くなっていた。  再婚から三か月後、宗輔がこの家に引き取られてきた日、結太は兄ができることに喜んで、彼を歓迎するため色々と準備をしてワクワクしながら待っていた。お菓子、ゲーム、漫画に自分の宝物。  やってきた四つ上の男の子は、背が高く目鼻立ちも整ったイケメンだった。その恰好よさに、結太は心臓をドキンと波打たせ、頬を赤くした。相手は同じ男なのに。

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