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第10話
まるで恋する少女のように、結太は義兄に憧憬の感情を持ったのだった。
『ぼく、結太です。よろしくね。一緒にあそぼお兄ちゃん』
そう言った結太に、宗輔は氷のような目を向けて一言返した。
『死ね』
最初の言葉がそれだった。
宗輔は一緒にいた義母にめちゃくちゃ叱られて、けれど絶対に謝ろうとはしなかった。むっつりと押し黙り、何に腹を立てているのか、その後今日までずっと気難しい顔を結太に向けている。
「仲良くしたいのに」
どんなに冷たくされても、結太は宗輔を嫌いになることはできないでいる。
それは、彼の怒りの中に、どうしてか寂しさも感じ取ってしまうからだ。きっと大好きだった母親を取られてしまった憎しみと、実父を亡くした悲しみから、彼の心は頑なになってしまっているのだ。
思い返せば初めて会ったとき、彼の目は数日泣き腫らしたかのように赤く、唇は何かに耐えるように強く引き結ばれていた。
宗輔と仲良く暮らせたら。それはどんなに楽しい毎日だろう。そう思って、木像にも願いをかけたのだった。
「あ、木像」
壊れた像は、床に散らばったままになっている。結太はゴミ袋を持ってきて、欠片を拾って中に入れた。
「時間を見つけてきちんと直さなきゃな」
父に送られた最後の品でもある。結太は袋をリビングの隅におくと、赤ん坊を抱きかかえた。赤ん坊は小さな手で眠そうに自分の頬をこすっていた。
それを見ていたらこちらも眠たくなってきた。今日は仕事が終わってから買いだしと料理、その後の騒動で忙しく動き回りすぎた。
結太は自分も寝る用意をすませると、自室に入って赤ん坊をベッドにおいて、横で一緒に眠りについたのだった。
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