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第12話

 言い終わらないうちに玄関に走っていった宗輔は、袋からぐしゃぐしゃになったスーツを取りだした。 「濡れてる」 「あ、それおもらししたからですよ」 「誰がっ」 「誰って」  顔をあげると、しかめ面の宗輔と目があう。結太も昨日の出来事が信じられず眉根をよせた。 「……まさか」  宗輔がはかされていた紙オムツのことを思いだしたらしい。端整な顔に絶望の色が広がる。 「宗輔さん、昨日はどこにいたんですか」 「憶えていない」  青くなった顔でこめかみに指を押しあてた。 「昨日、ここにきて急に気分が悪くなって、エレベータにのったとたん意識が遠のいて、気づいたらお前のベッドで寝ていた」 「ええ、まさか」  そういえば、あの赤ん坊はどこへいった? 昨日の夜、自分の横に寝かせておいたはずのあの子は。目をパチクリさせる結太に、宗輔は慌てた様子で続けた。 「とにかく、これじゃ仕事にいけない。いったん家に戻る。おい、お前の服を貸せ」 「あ、はい。わかりました。けど、サイズがあうかどうか」 「恰好など構わん、タクシーを呼ぶ」 「あら、リッチですね」 「薄給だ」  結太は寝室に戻ると、クローゼットから宗輔が着られそうな服を取りだした。サイズが違うせいか、ちんちくりんな服装になってしまったが、宗輔は気にせず急いで身に着けて、スマホでタクシーを呼んだ。  十分ほどして、マンション前にタクシーがやってきた。『つきました』と電話が入ったので、宗輔は慌ただしく荷物をまとめると、玄関に向かった。  ドアをあけて外にでるときに、ふと思いだしたように手をとめて振り返る。  結太に向かって、ぼそりと「世話になったかもしれん」とだけ、きまり悪そうに言い残して去っていった。  玄関先で見送った結太は、宗輔が礼のような台詞を残していったことに一分ばかり呆然として、ハッと自分も仕事があることを思いだし、急いで準備に取りかかった。

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