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第13話 0歳児
あの赤ん坊は一体どこにいってしまったのだろう。
結太は宗輔を見送った後、寝室を探してみたのだが、それらしき物体はどこにも見あたらなかった。もしかして自分はとんでもなく不思議な夢を見てしまったのだろうか。
首をひねりながら、自宅から自家用車で二十分の勤務先である幼稚園に出勤し、いつものように子供たちの世話をしてすごした。
「吉原先生、電話ですよ~」
と、同僚のひとりに呼ばれて、職員室の電話を取ったのは、一日の仕事も終えた午後六時すぎ、帰り支度をしている途中だった。
「はい、吉原です」
『ああ、吉原結太さんですか。成善宗輔 さんのご家族の方ですよね。ええと、名刺の事務所に電話したら、あなたのほうにも連絡するようにと言われたもので。あ、私、高崎警察署高崎駅前交番のものですが』
「はあ」
電話の声は中年男性で、どうやら警察官らしかった。
『実はですね、成善さんがですね、新幹線の中でいきなりお子さんを残して失踪されてしまいまして』
「はああ?」
『荷物と、お子さんだけ残して跡形もなく消えてしまったんですよ。隣にいた人が言うにはですがね、煙みたいに消えたと。まあ、それは夢でも見たんでしょうが。とにかくそういう訳で赤ちゃんと荷物、預かってますので、今すぐこちらにきて頂けませんか?』
そう言われて、結太は頭の中がひっくり返ったみたいに混乱した。
とりあえず、また赤ん坊が出現したのならと、幼稚園の備品の中から紙オムツとバスタオルを借りてバッグにつめこみ園をでる。
駅まで車で向かい、新幹線にのりこんで高崎駅まで移動した。三時間かけて高崎駅前交番に着くと、そこには警察官と駅員と、間違いなくまたあの赤ん坊がいた。
「もらしちゃったみたいで、一応、紙オムツ買って、あてときました」
駅員に言われて、結太は恐縮しながらお礼を言った。
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