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第16話 大人宗輔
「おい」
「んん」
「おいコラ起きろ」
「う~ん、待ってもうちょっと。……って苦しい苦しい締まるっ」
パジャマの襟を締めあげられて、結太は心地よい眠りからいきなり目覚めさせられた。
「苦しいって、あれ、宗輔さん?」
重い瞼を持ちあげると、昨日と同じ、裸の宗輔が目の前にいた。
「戻ったんですかっ、宗輔さん」
「お前。二日続けて俺に何をしたか白状しろ、この野郎」
ブチ切れ状態の宗輔が、視線を足の間に落とす。結太もつられて目を落とす。そこにはやはり紙オムツがあてられていた。
「お前、俺をおちょくってんのか、ええ? 今までの報復でもしてんのか」
「な、何を言ってるんです。そんなことする訳ないじゃないですか。俺は、多分、お世話したんですよっ」
「何の世話だこの野郎っ」
とにかく落ち着いて、と言って、興奮気味の宗輔をなだめる。そうして、少し冷静になったところで結太は昨日と同じ質問をした。
「宗輔さん、自分に何が起こったのか、憶えていないんですか?」
宗輔は腕を組んで、眉間に深い皺を刻んだ。
「憶えていない。昨日は、長野で仕事をすませて新幹線にのりこんで。ノートPCをひらいたところで意識が途切れた。そして気づいたらこの有様だ」
あぐらで座る股間には、小さすぎて破れた紙オムツが絡まっている。結太の視線がそこに注がれていることに気がつくと、忌々しげに脱ぎすててシーツに叩きつけた。
全裸になった宗輔に、結太は居心地の悪さを感じてしまった。中学から続けていた水泳できれいに引き締まった身体が目の前に存分にさらされて、目のやり場に困ってしまう。けれど宗輔のほうは怒りと困惑に頭が一杯らしく、羞恥などどこかにいってしまっているようだった。
「……実は、宗輔さん、記憶をなくしている間に、どういう訳か変身して、赤ん坊になってしまってた、と言ったら、信じてくれます?」
「は?」
「多分、そうなんだと思うんですけど、宗輔さん、赤ちゃんに戻ってしまってたんです」
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