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第20話
「これからいく家は、今俺が担当している事件の証人なんだが、守秘義務があるからお前を話しあいの場に連れていくことはできない。玄関先に残しておくから、もしも何か異変が起きたようだったら、そのときはすぐにフォローしにこいよ」
「つまり、赤ちゃんになってしまうかもしれないから、そのときは助けにこいと」
「そういうことだ」
「わかりました。大丈夫。紙オムツもおしりふきも持ってきました。準備万端です」
「……」
手際のよさを褒めてもらえるかと思ったが、宗輔は何とも言えない渋い顔をした。
浜松に着くと、ふたりはタクシーで目的の家へと向かった。宗輔は詳しいことは教えてくれなかったが、どうやら遺産相続でもめているらしい。それを宗輔は担当しているようだった。
どこにでもある普通の一軒家の、インターホンを押して待っていると、中から中年の夫婦がでてきた。結太は事務員だと紹介されて、先刻言われた通り玄関で待つことになった。
何かあったら必ずこいよ、と目顔で命じる宗輔に、了解と頷く。そうして框に腰かけて夫人に用意してもらった茶と菓子を食べながら待機した。時刻は午後三時。ちょうどいいおやつどきだった。
「……長いなあ」
それから二時間半ほど、話がこじれているのか待たされた。いい加減座っているのにも飽きて、スマホの電源も尽きかけたので立ちあがって伸びをする。
「弁護士の仕事って大変そう」
壁に飾られた絵画などを暇つぶしに眺めていたら、突然、奥の座敷から「ひぃぃっ」という引きつった叫び声が聞こえてきた。
「きたかっ」
結太は靴を脱いで、バッグを手に廊下を駆けていった。
「何なのこれ、せ、先生っ」
という声がする襖を、「失礼します!」と声をかけてあける。
するとそこには、やはり赤ん坊になってしまった宗輔がいた。座布団の上で、背広を纏わせた赤ん坊が手足をウバウバと動かしている。
「な、な、何なんですかこれは」
大きな卓の、対面に座っていた夫婦が驚愕の表情で抱きあっていた。
「いやあの、先生は手品の達人でもありまして。ときどき気を抜くとこうやって技がでてしまうのです」
とでまかせを言い、てきぱきと服を脱がせて紙オムツをあててバスタオルで包んだ。
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