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第23話
「宗輔さんと仲良くなれますように、って」
「はあ?」
素っ頓狂な声を相手があげる。そんなにビックリしなくたっていいのに、と結太は恥ずかしくなった。
「子供かよ」
「だって、仲良くしたかったんですし」
「そんな願いごとのせいで俺はこのざまか」
「そんなって、俺にとっては、すっごく大切なお願いだったんですよ」
結太が上目で、拗ねたように口を尖らせる。
それに、宗輔が「む」と整った顔をしかめた。結太の言葉が思いがけなかったらしく、何となく居心地悪そうに視線をそらす。怒らせてしまったのか、目許がわずかに赤らんだ。
「馬鹿馬鹿しい。大体、お前は昔から馬鹿だった。仕事も子供相手ばかりしてるから思考も幼稚だ。何だよ、そんな単純な願い事。俺だったら世界征服ぐらい願うぞ」
「宗輔さん怖いです」
「もう事務所に出勤しないと」
宗輔は壁時計を見て立ちあがると、通勤鞄を手にした。
「結太」
いきなり名前を呼ばれてドキッとする。
そういえば、下の名を呼ばれたのは初めてかもしれない。出会ってから十四年、お初の出来事に心臓が飛び跳ねた。
「は、はい?」
ビックリしすぎて変な声がでる。それに、宗輔もどうしてかわからないが慌てたような顔になった。本人も無意識のうちに結太の名を呼んでしまい、言ってしまってから自分の行動に戸惑っているような様子だ。
「俺がこんなことになったのは、絶対にお前のせいだ。だから呪いが解けるまでは赤ん坊になった俺をお前が世話しろ。わかったな」
「あ、はい」
それは全然構わなかった。何しろこっちは育児のプロだ。
「任せといてください。ちゃんと面倒は見ます」
胸を張って約束すれば、宗輔は「あたり前だ」と恐い顔をする。
「何かあったらお前に連絡がいくようにしておく。呼ばれたらすぐに駆けつけろよ」
「わかりました。それで紙オムツをつけてあげればいいのですね。スーツにおもらししないうちに」
「締めあげるのは次の機会にしておいてやる。そうだその通りだ忘れるな」
結太の目の前に人差し指を突きつけて念を押す。それから玄関に向かった。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
普通の家族みたいに送りだして、そうして普通に挨拶できたことに、結太はちょっと感動していた。
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