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第24話 お迎え

 結太の勤める夢が丘幼稚園は郊外の高台にある。園児数九十名の私立幼稚園だ。そこで結太は勤めて三年目の教諭をしている。 「吉原先生、お電話かかりましたよ」 「はい、すいません」  園長先生自らの呼びだしに、卒園式用の飾りつけを作っていた結太は恐縮しつつ職員室へいき電話を取った。時刻は午後五時すぎ。宗輔からいつ呼ばれてもいいように準備だけはしていた。 『吉原結太さんですか。私、宮本法律事務所の宮本と申します。宗輔くんから異変があったらすぐにあなたに連絡するように言われているのですが』  相手の声は中年男性で、いささかうわずった喋り方をしていた。それで何が起こったのか予測はついた。 「了解しました。すぐに向かいます」  詳細は聞くまでもなくわかっている。そして園長に早めに帰らせて欲しいと前もって伝えてある。結太は必要なものをつめたマザーズバッグと、同僚から急遽借りたベビーシートを手に自家用車にのりこんだ。宗輔の勤める法律事務所は幼稚園から車で三十分。駅近くのそのビルに着くと、急いで二階の事務所に飛びこんだ。 「お待たせしました」  事務所には三人の所員がいた。皆、困り顔でソファの上を見つめている。そこには昨日よりまたちょっと成長したチビ宗輔がスーツの中いた。 「失礼します」  紙オムツと子供服をバッグからだして、手際よく着がえさせる。  アブアブと上機嫌の宗輔を抱きあげると、それを見ていた壮年の男性がおっかなびっくりの顔で話しかけてきた。 「いや、宗輔くんから事情は聞いていたけれど……本当に変わっちゃったんだね。信じられないよ、驚いた。あ、僕はここの所長の宮本というものだが」  名刺をだされて、抱っこしたままの手で受け取った。 「弟の吉原結太です。兄がお世話になっております」  事務員の女性がお茶を持ってきてくれたので、ソファに腰かけて宮本と詳しい話をした。

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