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第27話

 そうしていたら宗輔の生家に着く。結太はここにくるのは初めてだった。  住宅街の奥にある古くて立派な一軒家。結太の住むマンションの五倍の広さはありそうだ。この家に宗輔はひとりで暮らしている。何でも曽祖父の代からここに住んでいるのだという。職人によって丁寧に作られた日本庭園と、がっしりとした造りの日本家屋。今は少しさびれているが、時代をへた風格が感じられる。 「車はそこにとめろ」  と言われて、庭の横の車庫に停車した。  大きな引き戸の玄関をくぐり、中に入る。長くて広い廊下を通って、奥の宗輔の部屋へと向かった。途中の部屋の襖があいていたので、ちらとのぞくと、そこは書庫らしく大量の本がつめこまれていた。ほとんどが黒い合皮の表紙で括られた分厚い冊子だ。 「あれは何なんですか」  前を歩いていた宗輔にたずねてみる。 「ああ。あれは判例集だな。判事の定年退職後に弁護士になった曽祖父が集めたものだ。今はもう、調べるのもパソコンですませられるから使わないが」 「へええ」  天井まで造りつけられた棚いっぱいに、黒い本はびっしりつまっていた。 「宗輔さんちは、代々弁護士だったんですよね」 「ああそうだ。父も祖父もな。だから俺も家を継ぐ意味で、弁護士を選んだんだ」 「そうなんですか」  成善家に対する、宗輔の思いがわかるようだった。彼はこの家を、自分の祖先を大切にしているのだ。 「宗輔さんのお父さんって、どんな方だったのですか」  結太は、その人のことは何も知らなかった。 「親父か? 俺の親父は厳しい人だったよ。頑固で勤勉で。自分に厳しかったが、他人にも同じように厳しかった。……まあ、だから、母親もついていけなくなったんだろうがな」  最後はぽつりとこぼすように言う。その横顔は過去の寂しさをたどっているようで、結太の心はツクンと痛んだ。  宗輔の両親は、彼が六歳のときに離婚している。その後、母親は家をでたが宗輔はここに残された。跡継ぎだから父親が絶対に手放そうとしなかったのだと、後で結太は自分の父親から聞いた。

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