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第28話

 十三歳で彼の父が病死するまでの七年間、宗輔は実父とふたりきりで、この広い家で何を思って暮らしていたのだろう。宗輔が結太の家にやってきたとき、彼の表情は暗く荒んでいた気がする。自分を捨てたと思っていた母親と、新しい父と弟。考えてみれば、嬉しい状況などではなかったはずだ。だから、引き取られた後もあんなに頑なに結太たちを拒んでいたのだ。  ――けれど。  けれど結太は知っている。本当は、宗輔がとても優しい一面を持っていることを。  宗輔が、結太の家にやってきて半年ほどたったとき、それがわかる出来事があった。  あれは九月の、とても暑い日のことだった。当時小学四年生だった結太は、学校の帰り道で一羽の傷ついたインコを草むらで見つけて、拾って帰宅した。  その日は母が家を留守にしていた。だから幼い結太は手の中で動かない小鳥に何もしてあげられなくて、玄関先でひとりで泣いていた。それを中学から帰った宗輔が見つけたのだった。 『どうしたんだよ』  怪訝そうに問いかけられ、結太はしゃくりあげながら答えた。 『ひろった、の。このこ死んじゃうの? さっきまで、動いてたのに』  涙でぐしゃぐしゃになりながら、手の中の小鳥を見せる結太に、聡明な宗輔は瞬時に全てを理解したらしい。すぐに、グイッと腕を引いて近くの動物病院へと連れていってくれた。 『泣くなよ。きっと助かるから』 診察中、待合室でまだグズグズ泣いている結太に、横に腰かけた宗輔はぶっきらぼうに言った。  ただその一言だった。それ以外はしかめ面だった。きっと泣き続ける結太をどう扱っていいのかわからなかったのだろう。けれど、その言葉は何よりも結太を元気づけてくれた。  あのときの宗輔はすごく頼もしかった。  そして治療の甲斐あって小鳥は無事に助かり、結太の家で飼うことになった。鳥籠や餌を買ってきて、毎日掃除をして。一番熱心に面倒を見ていたのは、意外にも宗輔であった。誰に頼まれずとも、率先して小鳥の世話をした。  結太が小学校から帰ると、誰もいないリビングの隅で、鳥籠の前に座った宗輔がインコに話しかけながら笑っていることもあった。  それは見たこともないほどの優しい笑顔で、結太はこんな笑い方もするんだと、不思議なものを発見した気分になった。

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