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第29話

 小鳥も宗輔に懐いていたけれど、不運なことに二週間ほど世話をした後に、母親がマンションの掲示板に貼られていた『迷子の小鳥さがし』のチラシから飼い主を見つけてきてしまった。それで、元気になったインコは持ち主に返さねばならなくなった。  小鳥を返した後、宗輔はどこか寂しそうにしていた。せっかく懐き始めた小鳥を手放さなければならなくて、がっかりしたのかもしれない。 『何だよ。あいつ家族がいたんじゃん……』  まるで、鳥も自分も家族がいないような言い方をした。  それを聞いて、結太は悲しくなった。宗輔にだって家族がいるじゃないか。自分や両親が。なのにインコにおいていかれたように悔しそうに言う様を見て、結太の心も同じように傷ついたのだった。  それから結太は、宗輔のことばかり考えるようになった。いつも部屋にこもって孤独にすごす宗輔を、どうしたら楽しませてあげることができるのか。一緒に仲良く暮らすにはどうしたらいいのか。冷たくされても彼のことが嫌いになれなかったから、結太は関係をよくする努力をしてきた。  ――宗輔さんと、仲良くなれますように。  もしかして、あの木像は、本当に結太の願いを聞き届けてくれたのかもしれない。  十四年来の、結太の想い。それが叶うように、子供の宗輔を連れてきてくれたのかもしれなかった。 「不思議な出来事だけどな。だったら、責任持って育てなきゃ」  過去から託された宗輔を、ちゃんと理解してあげないと。彼の心の頑なな部分を、今度はきちんとわかってあげたい。 「おい結太、荷物をつめるの、手伝え」  廊下の奥の部屋から呼ばれて、結太は「はい」と明るく返事をして宗輔の元へと向かった。

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