30 / 80

第30話 同居します

 そして宗輔と結太の、一時的な同居生活が始まった。  毎日、日の入りの時刻になると、宗輔は事務所を早退して結太の幼稚園までやってくる。そこで小さく変化すると、結太は彼を着がえさせて、おぶって仕事をした。  帰宅後は食事をさせて風呂に入れて就寝。翌朝は大人に戻った宗輔に朝食を作って送りだす。  最初は生まれたてだった宗輔も順調に成長し、ハイハイ、つかまり立ち、言葉も喋りだすようになった。  赤ちゃんの宗輔は本当に可愛くて、結太は毎晩張り切って世話をした。まるで母親になったみたいに手作りの離乳食を食べさせ、いそいそと紙オムツをかえて寝かしつけて。チビ宗輔の可愛さに夢中になっていた。  けれどそれが、大人の宗輔のプライドを傷つけてしまっているということに、結太は楽しすぎて全然気づけていなかったのだった。 「チビ宗輔さん、本当に可愛いですよ。昨日は一緒に、夕食のあと、お歌も歌ったんです」 「へえ」 「この動画見てください。ほらほら。ああ、もう、笑顔が最高でしょ。本当に素直でいい子なんですよ。元気だしいつも笑顔だし、よく食べてよく寝るし」 「……」  休日の朝だった。呪いがかかってから今日は十一日目。ふたりで朝食を終えたところだった。  結太は撮りためた動画を宗輔に見せて、チビ宗輔がどれほど可愛いかを力説していた。 「はぁ、可愛い……。もうずっと宗輔さん育てていたい」  うっとりしている結太を横目に、宗輔は自分の幼い姿を冷静な目で見ていた。 「ていうか、この生態観察記録は何なんだ」 「育児日記です」  結太は毎日、育児記録もつけていた。机の上に広げていたそれを見て、宗輔が眉根をよせる。 「ここにあるバナナ豆腐とは一体なんだ」 「つぶしたバナナと豆腐を混ぜたものです」 「そんなおぞましいものを食わされてるのか」  ウッと口元を押さえてうめく。大人は食べたいと思わないメニューかもしれないが栄養価も高い人気の離乳食だ。 「チビ宗輔さんも大好物です」 「二度と食わすな」  バタンと育児日記をとじてしまう。眉間には深く皺が刻まれていた。  いつものことだが宗輔は今朝も寝起きから機嫌が悪い。脱いだ紙オムツは隠すようにゴミ箱の一番下に捨てられていた。

ともだちにシェアしよう!