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第30話 同居します
そして宗輔と結太の、一時的な同居生活が始まった。
毎日、日の入りの時刻になると、宗輔は事務所を早退して結太の幼稚園までやってくる。そこで小さく変化すると、結太は彼を着がえさせて、おぶって仕事をした。
帰宅後は食事をさせて風呂に入れて就寝。翌朝は大人に戻った宗輔に朝食を作って送りだす。
最初は生まれたてだった宗輔も順調に成長し、ハイハイ、つかまり立ち、言葉も喋りだすようになった。
赤ちゃんの宗輔は本当に可愛くて、結太は毎晩張り切って世話をした。まるで母親になったみたいに手作りの離乳食を食べさせ、いそいそと紙オムツをかえて寝かしつけて。チビ宗輔の可愛さに夢中になっていた。
けれどそれが、大人の宗輔のプライドを傷つけてしまっているということに、結太は楽しすぎて全然気づけていなかったのだった。
「チビ宗輔さん、本当に可愛いですよ。昨日は一緒に、夕食のあと、お歌も歌ったんです」
「へえ」
「この動画見てください。ほらほら。ああ、もう、笑顔が最高でしょ。本当に素直でいい子なんですよ。元気だしいつも笑顔だし、よく食べてよく寝るし」
「……」
休日の朝だった。呪いがかかってから今日は十一日目。ふたりで朝食を終えたところだった。
結太は撮りためた動画を宗輔に見せて、チビ宗輔がどれほど可愛いかを力説していた。
「はぁ、可愛い……。もうずっと宗輔さん育てていたい」
うっとりしている結太を横目に、宗輔は自分の幼い姿を冷静な目で見ていた。
「ていうか、この生態観察記録は何なんだ」
「育児日記です」
結太は毎日、育児記録もつけていた。机の上に広げていたそれを見て、宗輔が眉根をよせる。
「ここにあるバナナ豆腐とは一体なんだ」
「つぶしたバナナと豆腐を混ぜたものです」
「そんなおぞましいものを食わされてるのか」
ウッと口元を押さえてうめく。大人は食べたいと思わないメニューかもしれないが栄養価も高い人気の離乳食だ。
「チビ宗輔さんも大好物です」
「二度と食わすな」
バタンと育児日記をとじてしまう。眉間には深く皺が刻まれていた。
いつものことだが宗輔は今朝も寝起きから機嫌が悪い。脱いだ紙オムツは隠すようにゴミ箱の一番下に捨てられていた。
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