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第33話*
籠から紙オムツをひとつ手に取る。パンツタイプのものだ。目が据わっていた。
「許してください。パンツタイプは値段が高いのに」
「許さん」
ぐいと足首を掴まれ、紙オムツを足に通される。仕方なく結太はモゾモゾとそれをはいた。別にオムツをはくこと自体は、恥ずかしいとは思わなかった。介護の授業を受けたことだってある。大人だって事情があればオムツを着ける。
けれど、宗輔の前ではくのは恥ずかしかった。それはきっと宗輔の視線が火がついたように熱くなっているからだろう。
「……はきました」
子供用なのでぴちぴちだ。尻の丸さが目立っている。じっと見られて、そのせいでまた恥ずかしくなった。
「なら、その中で、しろ」
「へい?」
変な声がでた。
「しろっつってんだ。それで俺に恥ずかしい顔見せてみろ」
「何でですか」
「俺も毎日、お前にやられてるからだよ!」
「そんな。俺が毎日してるのは育児ですけど、これは育児プレイじゃないですか」
「俺にしてみればどっちも同じだ」
「俺にしてみれば全然違います」
結太の反論に、宗輔にいじめっ子が焦れているような表情が浮かぶ。それに、結太は眉根をキュッとよせて睨み返した。こっちはいじめに耐えるいじめられっ子ような顔つきになる。ちょっと涙目になっていたかもしれない。
宗輔は結太の眼差しに若干怯んだようになった。瞳にあった怒りの炎が少し小さくなる。けれど、意地っ張りな性格が災いしてか、それとも何か違う感情が刺激されでもしたのか、先程とは異なる腹立ちの色が目に宿った。
「とにかく脱ぐのは許さんぞ。そこにするまで、ずっとはいてろ」
「脱いだらどうするんですか」
結太も結構、負けず嫌いなところがある。
「脱がないように、見張ってる」
そう言って、結太の両手を大きな片手でまとめて握りこんでしまった。
「弁護士とは思えない悪行です」
「うるさい。嫌ならさっさとだせ」
「すぐにはでませんよう」
宗輔はラグに横になった結太に、馬のりのような状態でのしかかっていた。顔も近い。相手の興奮した息づかいが荒々しく、結太はドキリとしてしまった。
そういえば、こんなに身体を密着させるようなことは宗輔とはしたことがなかった。というか、他人としたことがない。それを意識すると、急に顔に血がのぼってきた。
「……あれ」
気づけば、貧弱な息子がバンザイしていた。
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