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第37話
「お前、子供化した俺に、たくさん金使ってるだろ。請求してこないから、俺もそこまで気が回ってなかった。それ、使え」
そうして、きまり悪げにぼそっと言った。
「さっきは悪かった。弁護士としてあるまじき行為だった。訴えられても仕方がない。反省してる」
「……いえ」
結太はフルフルと首を振った。
「俺こそ、大人の宗輔さんのことも、きちんと考えなきゃいけないのに、子供中心になってしまってました。すいません」
宗輔は俯いた。心から反省しているようで、らしくなく萎れた様子だった。
「いいんだよ、俺のことは」
そう言うと、壁にかかった時計に目をやった。
「時間だな」
結太も時計を見あげる。
午後五時四十八分。そして目を宗輔に戻すと、薄緑の霧がふわりと発生し、大人の宗輔が消失した。
霧が消えたとき、そこには三歳になった宗輔がいた。びっくりした顔をしている。
「宗輔くん」
笑顔で話しかけると、チビ宗輔は不安そうな表情で、結太を見あげてきた。
「……ママは?」
可愛らしい声でたずねられる。結太は小さな頭をなでであげた。
「ママはね、明日になったら会えるよ。今夜は、僕が宗輔くんと一緒にすごすようにって、ママに頼まれているんだよ」
これは、毎回、子供になった宗輔に最初にかける言葉だった。チビ宗輔は必ず、開口一番、「ママはどこ?」と不安げにきいてくる。
それはそうだろう。このくらいの年齢の子が母親と離れて夜をすごすのは心許ないに違いない。だから結太は、精一杯、チビ宗輔が寂しがらないように心を砕くのだった。
「ご飯食べよっか。お腹すいてない? 宗輔くんの好きなもの、いっぱい作ってあるよ」
落ち着かない様子の彼を抱っこして、背中をポンポンと叩いてやる。ご飯を食べさせて、デザートをあげて。玩具で遊んでお風呂にも入って。
それでやっと、宗輔は結太に懐いて、一緒のベッドで寝てくれるのだった。
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