40 / 80

第40話

 焦りつつ、人通りも少なくなった住宅街を抜けて、三十分ほどで宗輔の家に着くと、車を路上にとめて花崗岩でできた立派な門柱を通り抜けた。  真っ暗な玄関先に、小さくうずくまる影がある。結太は安堵に泣きそうになった。 「……宗輔さん」  声をかければ、小さな頭が動いてこちらを見る。不安そうな小声で、影はたずねてきた。 「……お母さん?」  ゆっくり近づいていき、怖がらせないように優しく喋りかける。 「お母さんはね、ちょっとでかけてるんだ。お兄さんが、宗輔くんを見てくるように頼まれたんだよ」 「嘘だ」 「え?」 「お母さんはもう帰ってこないよ」 「……」 「でていっちゃったから。お父さんとリコンして。僕をおいてどっか、……いっ、ちゃ、……っ」  急に涙声になったかと思ったら、宗輔は声を殺して泣き始めた。きっと結太がここにくるまでも泣いていたのだろう。子供特有のやわらかな、けれど悲しみでいっぱいの泣き声が、糸を引くようにか細くあたりに響く。 「宗輔さん」  結太は思わず、宗輔を抱きしめていた。小さな肩をギュッと包みこんで、そして一緒に泣いてしまっていた。 「俺が、今夜は一緒にいるから。宗輔さんをひとりにしないから。ごめん、寂しかったよね。迎えにくるのが遅くなって、本当にごめん」  宗輔は涙をシャツの袖で拭きながら、顔をあげてきた。 「お兄さん、誰……?」 「宗輔くんの親戚なんだ。宗輔くんと仲良くなりたくて、遊びにきたんだよ」 「……そうなの」  真っ暗な中で抱きあったまま話しかける。宗輔は少し不審そうに、しかし離れもせず腕の中でじっとしていた。 「ここじゃ寒いし、お腹もすいたろ? そこに車あるから、お兄さんちこない?」 「……いかない」 「え」  幼い宗輔は聡かった。 「知らない人だもん、お兄さんは。お父さんが帰ってくるの、ここで待ってる」 「そ、そっか。そうだよね普通」  宗輔の実父はもう亡くなっている。いつまで待っても帰ってはこない。 「それじゃあ、家の中で待とうか。こんなところで待ってたら風邪ひくしね」  結太は車に戻って、宗輔の鞄を持ってきた。中に家の鍵が入っていることは知ってる。  すいません入らせて頂きます、と心の中で断りを入れてから鍵をあけた。家に入るとまず、警察に見つかりましたと連絡を入れる。それから持ってきた子供服に着がえさせた。

ともだちにシェアしよう!