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第40話
焦りつつ、人通りも少なくなった住宅街を抜けて、三十分ほどで宗輔の家に着くと、車を路上にとめて花崗岩でできた立派な門柱を通り抜けた。
真っ暗な玄関先に、小さくうずくまる影がある。結太は安堵に泣きそうになった。
「……宗輔さん」
声をかければ、小さな頭が動いてこちらを見る。不安そうな小声で、影はたずねてきた。
「……お母さん?」
ゆっくり近づいていき、怖がらせないように優しく喋りかける。
「お母さんはね、ちょっとでかけてるんだ。お兄さんが、宗輔くんを見てくるように頼まれたんだよ」
「嘘だ」
「え?」
「お母さんはもう帰ってこないよ」
「……」
「でていっちゃったから。お父さんとリコンして。僕をおいてどっか、……いっ、ちゃ、……っ」
急に涙声になったかと思ったら、宗輔は声を殺して泣き始めた。きっと結太がここにくるまでも泣いていたのだろう。子供特有のやわらかな、けれど悲しみでいっぱいの泣き声が、糸を引くようにか細くあたりに響く。
「宗輔さん」
結太は思わず、宗輔を抱きしめていた。小さな肩をギュッと包みこんで、そして一緒に泣いてしまっていた。
「俺が、今夜は一緒にいるから。宗輔さんをひとりにしないから。ごめん、寂しかったよね。迎えにくるのが遅くなって、本当にごめん」
宗輔は涙をシャツの袖で拭きながら、顔をあげてきた。
「お兄さん、誰……?」
「宗輔くんの親戚なんだ。宗輔くんと仲良くなりたくて、遊びにきたんだよ」
「……そうなの」
真っ暗な中で抱きあったまま話しかける。宗輔は少し不審そうに、しかし離れもせず腕の中でじっとしていた。
「ここじゃ寒いし、お腹もすいたろ? そこに車あるから、お兄さんちこない?」
「……いかない」
「え」
幼い宗輔は聡かった。
「知らない人だもん、お兄さんは。お父さんが帰ってくるの、ここで待ってる」
「そ、そっか。そうだよね普通」
宗輔の実父はもう亡くなっている。いつまで待っても帰ってはこない。
「それじゃあ、家の中で待とうか。こんなところで待ってたら風邪ひくしね」
結太は車に戻って、宗輔の鞄を持ってきた。中に家の鍵が入っていることは知ってる。
すいません入らせて頂きます、と心の中で断りを入れてから鍵をあけた。家に入るとまず、警察に見つかりましたと連絡を入れる。それから持ってきた子供服に着がえさせた。
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