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第41話
チビ宗輔はシャツとネクタイしか身に着けていなかった。下にはいていたものは歩いてくる途中で脱げてしまったのだろう。下着も靴下さえもなかった。そして、足の裏には擦り傷を負っていた。
「痛かっただろ」
きれいに洗って、とりあえずラップを巻いた。
「お腹すいた?」
「うん」
抱っこしてダイニングテーブルまで運んで、椅子に座らせた。広い台所に入って、何か食べ物はないかと探してみたが、宗輔は料理をしないのでカップラーメンくらいしか見つからなかった。仕方なくそれを作る。
「……おいしい?」
「まずい」
「そっかあ」
「……お母さんの、ほうがおいしい」
「だよね」
また目に涙をジワリと浮かべたので、結太は横に座って、色々と気を紛らわせるように話しかけた。そうしているうちに、あることがわかってきた。
チビ宗輔は、前日までの変化の記憶をいっさい持っていなかった。昨日の夕刻、どんな風に変身して、夜の間、結太と何をして過ごしたのかを、まったく憶えていない。
つまり、毎日、新しい宗輔がやってきているのだ。
この幼い宗輔は、一体どこからくるのだろう。過去から飛んでくるのか、それとも大人の宗輔の心の中にある彼の幼い存在が具現化しているのか。もしも過去からくるのなら歴史が変わってしまうから、多分、後者のほうなのだろう。
毎日、結太は宗輔の成長をたどり、そして彼がどんな経験をして、何を感じてきていたのかを目の前で見せられている。小さな宗輔の細い髪をなでながら、こんな姿の彼に会えたことを嬉しく、そして愛おしく感じていた。
その晩は、座敷に布団を敷いて、ふたりで一緒に眠った。パジャマ代わりに大人用のTシャツを着せられた少年宗輔は、ギュッと結太にしがみついて、胸に顔を埋めるようにしてきた。
「お兄ちゃん、明日もいる? また一緒に遊べる?」
たずねてくる幼い声に、胸が一杯になる。
「うん。明日も、明後日も、また会えるんだよ」
「そっかぁ……」
結太の言葉に、チビ宗輔は安心しながら目をとじたのだった。
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