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第42話 大人宗輔は甘いものが好き
翌朝、障子窓からさしこむ淡い朝日にとろとろと目を覚ました結太は、腕の中に大きな身体があることに気がついて、驚いた。
大人に戻った宗輔が、子供のときそのままに結太に抱きついていたのだ。片手が結太の背中に回され、こしのある黒髪が顎に触れている。結太は寝起きの瞼をぱちぱちさせた。
「……宗輔さん?」
見おろすと、宗輔の目はあいている。起きているのだ。
結太が目覚めたことに気がつくと、宗輔は無言でのそりと身体を離し布団からでていった。何も言わずに、大きな背中だけを見せて座敷を後にする。
「俺とひっついてたのが嫌だったのかな」
朝の挨拶もなくいってしまった宗輔に、結太はちょっと落ちこんだ。
子供の宗輔は懐いてくれたけど、大人の彼は結太と一緒の布団に寝るのは嫌だったのかもしれない。今夜からチビ宗輔が眠ったら布団を別にしたほうがいいな、と考えながら結太も起きて布団を押し入れに片づけた。
「おはようございます。昨日は大変でしたね」
「ああ」
宗輔は洗面所で顔を洗っていた。歯をみがき髭を剃っている。その横で、結太は昨日、何が起こったのかを話して聞かせた。
「それで、この家に泊まらせてもらいました」
「ああわかった」
話は聞いているが、目はあわせてくれない。どうしてかな、と思いつつ結太も仕事があるので、急いで支度をした。
家を出て、宗輔を車にのせて駅まで送る。その間も宗輔は窓の外だけを見て、憂いた表情をしていた。
「宗輔さん、どうしたんですか」
「何でもないよ」
取りつく島もない、素っ気ない返事をされる。
駅に着くと、宗輔は「いってくる」とだけ言って車をおりていった。
「どうしちゃったのかな……」
不思議に思いつつ、自分も幼稚園に出勤した。
その日から宗輔は、以前に戻ったように結太と打ち解けなくなってしまった。
朝も会話がほとんどなくなり、さっさと出勤していってしまう。休日も仕事があるからと事務所にいく。
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