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第43話
まるで結太を避けているような様子に、こちらも訳がわからないまま気落ちした。せっかく仲良くなれてきたのに、一体どうして元に戻ってしまったのか。
そして、同様に、子供の宗輔も毎日どんどん暗くなっていった。
六歳から十三歳までの宗輔は、父親とふたり暮らしをしていた時期だ。家事は通いのお手伝いさんがしてくれていたそうだが、食事は高血圧の父親にあわせて味気ないものだったらしく、少年宗輔はいつも家政婦のご飯がおいしくないとこぼした。
だから結太は心づくしの料理をふるまうのだが、味つけは母親似のせいか、時折彼は食べながら涙ぐんでしまうのだった。宗輔が多感な時期をこんなに寂しくすごしていたとは全く知らず、結太は心を痛めずにはいられなかった。
宗輔が仕事ででかけてしまったある日曜日、結太は夜にやってくる少年宗輔のために、ケーキを焼き始めた。
少年宗輔は甘いお菓子もあまり与えられていないようで、ケーキをだすとすごく喜ぶ。今日は彼の好きなフルーツロールケーキを作ることにして、スポンジを焼きながら果物を洗っていると、ダイニングの扉がひらく音がした。
「あれ? 宗輔さん? お帰りなさい。まだ昼間ですよ」
宗輔が入口で、不思議そうな顔で鼻をクンクンさせている。
「忘れ物を取りに……。この匂いは何だ?」
「あ、ケーキ焼いてるんです」
「……ケーキ」
宗輔は手にしていた鞄を床におくと、台所へとやってきた。
「チビが毎日食ってるデザートは、もしかしてお前が作ってるのか」
ケーキが気になったのか、珍しく宗輔のほうから話しかけてくる。
「え? はい、そうですよ。チビ宗輔さん、甘いもの好きみたいで」
「そうだったのか」
ちょうどスポンジが焼けたので、オーブンから取りだす。四角くて薄い生地は冷めたらフルーツと生クリームで包む予定だ。キッチンにふわりと卵と砂糖のいい香りが広がった。
「おい、それ、俺にも少し食わせろ」
「へ?」
いつの間にか、宗輔が真横にきていた。焼きたての生地をジッと見ている。
「宗輔さん、甘いもの好きだったんですか」
子供の宗輔が好きなら、大人の宗輔が好きであってもおかしくはない。しかし、今までそんなそぶりは見せたことがなかったから驚いた。
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