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第44話
「焼きたてのケーキは食ったことがない」
「わかりました。じゃあ、ロールケーキは変更してトライフルにしますね」
宗輔が食べたがったことが嬉しくて、結太は手早くカスタードクリームを作り、生地を小さな四角にカットしてフルーツや生クリームと共に皿にもりつけた。コーヒーも淹れて一緒にテーブルに持っていくと、宗輔はフォークを手にしてすぐにケーキを食べ始めた。
「……うまっ」
手を口にあてて、感動的な声をあげる。
「事務所でもケーキをもらったときに食べるが、こんなんじゃないぞ。全然違う。何でだ」
「手作りで焼きたてだからだと思いますよ」
「卵の香りがすごくする。それにクリームも濃厚でミルク感が強い」
「動物性クリーム使ってるんで」
宗輔はあっという間に一皿たいらげてしまった。空になった皿を持って台所にやってくる。もっと欲しかったようだ。
結太はチビ宗輔のためにフルーツの飾り切りをしていた。
「これ終わったら、足しますね」
「ああ」
宗輔はチマチマと作業をする結太の横にきて、兎型のリンゴや星型のキウイを眺めた。
「結太」
集中して切りこみを入れていたら、隣で声がした。
「はい?」
顔をあげると、妙に相手が近くにいて驚く。
「お前は、何で……」
ポツリとこぼし、少し考えこむ。
男らしい端整な顔は、今日もまだ少し憂いを含んでいるように思える。結太が言葉を待っていると、やがてまた口をひらいた。
「何でこんなに、俺に一生懸命に世話してくれるんだ」
「へ?」
「仲良くなりたいと、前に言ってたよな。確か。けれど、どうして俺と仲良くなりたがる?」
「どうしてって……」
「昔から、俺はお前に冷たくあたっていたのに、お前のほうはいっつも俺に何かと声をかけてきていたな。誕生日にはプレゼントくれたりして。俺は何でこんなに懐いてくるのか理解できなくて、だから余計に無視して気にしないようにしてたんだが。お前は、どうして俺に構ってきたんだよ。家族だからか。義理でも兄だから、親しくしなきゃいけないと感じてたからなのか」
「そ、それは」
結太の心の中にある、宗輔に対する気持ち。
「親切心か、それとも同情か? 俺が可哀想だった?」
「え、いえ、全然そんな訳じゃ」
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