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第45話

 この気持ちが何なのかと改めて問われると、結太自身にも曖昧だった。憧れと尊敬はあるけれど、それ以外にも特別な感情があるのだろうか。深く考えればある気もするが、まだ人生経験の浅い結太にはその正体がうまく掴めなかった。  ――どうしてなんだろう。  結太は首を傾げた。 「よくわかんないです」  不明瞭な答えに、宗輔は少しがっかりした表情を浮かべた。 「そうか」 「宗輔さんこそ、やっぱり俺に世話されるのは嫌なんですか。俺のことウザいって思ってますでしょ?」 「はっきりきく奴だな。まあ、お前は昔から世話焼きで、こっちへの距離は一気につめてくるところがあったけど」  宗輔は小さくため息をついた。 「……俺もよくわかんねえよ。自分のことなのに」  そして、チラと結太を見てきた。 「お前は義務と責任感で、チビの面倒見てるんだろうにな」  結太が手に持っていたハート型の苺に目を移す。苺はみずみずしくてきれいな紅色をしていた。 「ハートって、心臓の形なんだよな、確か」  難しい法律問題に直面したような顔になって苺を見つめる。  すると、解けない苛立ちをぶつけるかのように、いきなり結太の手首を掴み、苺をぱくりと結太の指ごと食べてしまった。 「そ、宗輔さ」  相手の唇と、白い歯の感触が指先にきてビクリと肩が跳ねる。宗輔は指を外し、憮然とした表情で呟いた。 「チビがお前の愛情こもったデザート食って、あいつばかりが満たされてるのが何かムカつく」  呆気に取られた結太に、宗輔はいつになく子供っぽい拗ねたような表情を見せてから、台所をでていった。そして自分の部屋によった後、「夕方には戻る」と告げて、また事務所に戻っていってしまった。  残された結太はシンクにもたれたまま、その場に立ち尽くした。 「……」  さっきの衝動は何だったのだろう。宗輔がハート型の苺を指ごと食べたときに心臓が跳ねた、あの感覚は。  結太は自分の心臓に手をあてた。まだドキドキがとまっていなかった。  ハートは心臓の形。くり抜いた赤い果実には愛情がこめられている。  それを宗輔が食べてしまった。チビ宗輔のために作った飾りを。まるで嫉妬するかのような台詞をもらして。

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