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第46話
急に、火がついたように頬が熱くなる。
そうして、天から答えがふってきたかのように、唐突に理解した。
どうして自分はこんなに、宗輔の世話をしたくなるのか。ご飯を食べさせて、「いってらっしゃい」と送りだすと、すごく満たされた気分になるのか。子供時代の宗輔を誰よりも大切に育てたいと感じるのか。それは――。
「好きだからだ」
自然とこぼれでた声が、身の内の感情を形にした。
「そっか……そうだったんだ」
初めて会ったときから。
憧憬にくるまれて、結太の恋心は発生していたのだ。
「俺、宗輔さんのこと……好きだったんだ」
何で今まで気づけなかったのだろう。
自分が鈍感だったからか。それとも宗輔が遠い存在だったからか。男同士で兄弟だったから、そんなことはありえないと先入観で蓋をしていたのだろうか。
けれど、一度自覚してしまったら、それは手に取るように明らかになった。
「好きだったんだ。ずっと」
まな板に彩りよく並べられた果物を見ながら考える。
毎日用意する夕食も、デザートも、チビ宗輔だけじゃなくて、本当は大人の彼にも食べてもらいたかったのだ。
「何で好きになったんだろ」
あんなに不遜で、結太には冷たい義兄なのに。
けれど結太の心の深い部分は理解していた。どうして彼のことが好きなのか。
――それはあの人の中に、愛情を求める孤独な少年がいるから。その少年の、とても繊細で優しいところに惹かれたから。
そしてふと、気がついた。
「……もうすぐ、チビ宗輔さん、十三歳になる」
十三歳。それは宗輔の実夫が亡くなり、同じ日に母親が結太の父と結婚した歳だ。
その三か月後に、結太と宗輔は初めて顔をあわせることになる。結太のことを、ものすごく嫌っていた少年時代の宗輔がやってくる。
「……どうしよう」
彼にどんな顔をして会えばいいのだろうか。
思春期の彼のことを考えると、結太の気持ちは一気に不安なものへと変わっていった。
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