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第47話 チビ宗輔の思春期
ここのところ、少年宗輔は、以前にも増して暗く沈んでいた。
そんな宗輔が父の死を抱えてやってくる。
「どうやって、迎えればいいのかな」
夕暮れの幼稚園。結太は延長保育だった子供を送りだし、教室で玩具の片づけをしながら考えた。
呪いがかかってから一か月半。計算上、今日やってくる宗輔が実父の死の直後の、十三歳の彼なのだ。
そうしていたら、同僚の女性教諭が結太を呼びにやってきた。
「吉原先生、お兄さんいらっしゃいましたよ」
「あ、はい」
時計を見れば、もうすぐ日没だった。
結太は立ちあがり、いつも宗輔が通されている応接室へと向かった。園舎の奥にある小部屋までいき、ドアをあけようとノブに手をかける。すると、ドアが内側から勢いよくひらかれた。
「あっ」
中から十三歳の宗輔が飛びだしてくる。ひどく慌てた様子で、廊下に視線をキョロキョロと走らせた。
「宗輔くん」
「えっ?」
声をかけると、驚いた顔でこちらを見あげてくる。その目は泣き腫らしたのか、真っ赤になっていた。
「ここはどこですか? あなたは誰?」
涙まじりの声で問いかけられる。幼さの残る顔に、不安が一杯に広がっていた。
「僕、早く病院に戻らないと。父が、父の遺体がまだ霊安室に」
「うん。そうなんだ。大丈夫、落ち着いて」
オロオロする宗輔の腕を掴んで、優しくなだめる。
「宗輔くん、えっと、初めまして。俺は宗輔くんの遠い親戚なんだ。今日はきみを助けにきたんだよ。さあ、中に入って、まず着がえようか」
結太はスーツ姿の少年宗輔を応接室に導いて、子供服をマザーズバッグから取りだした。何でこんな服を着ているのかと不思議がる彼に「眠っている間に飲み物をこぼしたから着がえさせた 」と説明する。これはいつも使う言い訳だった。宗輔は素直に信じて服を取りかえた。そしてまた部屋をでていこうとした。
「僕、すぐに病院にいかないと。父には近い親戚がいないから、宮本さんっていう父の友達の弁護士さんがきて、色んな手続きしてくれるんです」
宗輔が焦れながら言う。
「そうか。でも宮本さんとは連絡を取れているから、任せておいて大丈夫だよ。お父さんのことも心配しなくていい。それより、疲れているみたいだから、今夜は俺の家でゆっくり休むといいよ」
その言葉に、改めて結太を見あげてくる。
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