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第48話
「……お兄さんの家に?」
「そう。俺、宗輔くんのお母さんの親戚だから」
「母さん?」
母、と聞いて、ふいに宗輔の唇がわなわなと震えだした。
「……母さん、どこにいるんですか」
怒りと悲しみでいっぱいの表情になる。
「父さんが……昨日の夜、風呂場で急に倒れて意識をなくしてから……僕、ひとりでどうしていいかわからなくて、……何度も母さんに電話したのにでてくれなくって……それで、すごく、不安で……もう、父さんは呼びかけても返事しないし……死んじゃったらどうしようって、怖くて、怖くて……」
宗輔はボロボロと涙をこぼし始めた。
「そうだったのか」
宗輔の説明に、結太は愕然とした。
結太は、宗輔の実父が亡くなったときの状況はよく知らない。なぜなら、両親が説明をしてくれなかったからだ。きっと当時まだ子供だった結太を刺激しないようにという配慮からだったのだろう。しかし結局、その後も詳しくしらされる機会はないまま両親は他界してしまった。
「母さんはもう、僕と父さんのことなんか、忘れちゃったんだ」
「そんなことはないよ。けど、……事情があって」
「事情って、何?」
しゃくりあげる宗輔に、結太は言葉につまった。
母親と連絡が取れなかったのは、彼女が、結太と結太の父の三人で、海外に新婚旅行にいっていたからだ。母親は携帯電話を持っていただろうが、結太の憶えている限り、現地にそんな電話がかかってきた様子はなかった。多分、家の固定電話にだけかけられたのだろう。
「それは、今は言えないけど、お母さんは、用事で外国にいっているんだ」
苦し紛れの言い訳だった。それ以外にうまい理由は思いつかない。自分の思考の貧弱さに落ちこんだが、少年宗輔は「そうなんだ」と何となくではあるが納得してくれた。
「さあ、家に帰っても誰もいないだろうから、今夜は俺の家に泊まるといいよ」
できるだけ優しく言い聞かせる。宗輔は、ぼんやりと結太を見あげ、心細そうにコクリと頷いた。
仕事が終わった後、宗輔を車にのせて家へ帰る。そして心づくしの夕食をふるまい、父親が死んだ経緯を話してもらった。
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