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第49話
宗輔の実父は心臓発作で亡くなっていた。風呂に入りにいった父がいつまでたってもでてこないので、様子を見にいくと、脱衣所で裸で倒れていたという。
そのときの彼の驚きは幾ばくのものだったろう。救急車を呼ばなければと思いつつも、そんなことはしたことがなかったために、混乱してただ母親に救いを求めて電話をした。けれど、何度かけてもつながらない。不安に押しつぶされそうになりながら、仕方なく救急に連絡をした。
救急車がきたときには手遅れだったらしい。宗輔は病院で、たったひとりで実父を看取った。そして一晩、遺体と共に病院ですごしたのだった。
宗輔のそのときの孤独と心細さは、どれほどのものだったか。たった十三歳の少年が、頼る者もなく父親を失い、泣くしかなかった状況とは。
話している間中、涙は枯れることなく、何度も宗輔少年の頬を濡らした。
結太は彼を温かい風呂に入れて、自室のベッドの下に布団を敷き、一緒の部屋で寝ることを提案した。宗輔を結太のベッドに寝かせて、自分は布団に入り電気を消す。けれど、ぐすぐすと鼻を鳴らす宗輔はなかなか寝つけないらしく、そのうちに「……お兄さん」と話しかけてきた。
「うん、何だい?」
「……そっち、いっても、いい?」
「うん、いいよ。おいで」
布団を持ちあげると、ごそごそと音がして宗輔がやってくる。中に入るとギュッと結太にしがみついてきた。
「お兄さんは、母さんの親戚の、人なんだよね」
「そうだよ」
「だからかな。何か、安心する」
「そっか」
結太は宗輔の頭をなでてやった。
「お兄さん、明日も、一緒にいてくれる? 僕、ひとりになるのは嫌だよ」
グスッと鼻をすする音がする。
「うん、いるよ。ちゃんといるから」
安心させるように、背中もさすってやる。そうしていたらやっと、宗輔も落ち着いてきたらしく、しばらくして穏やかな寝息が聞こえてきた。
十四年前、結太と両親が新婚旅行を楽しんでいる間、宗輔はひとりでこうやってすごしていたのだ。知らなかったとはいえ、今更ながら彼に対して申し訳なく思ってしまう。
結太は宗輔が眠った後も離れがたくて、いつまでもまだ幼い身体を抱きしめ続けた。
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