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第51話

 当初、宗輔は、前夜の自分に起こったことを何も憶えていないと言っていた。だから結太はそれを信じていたのだが、思えば、あれは赤ん坊だったからではなかろうか。段々と育っていくうちに、記憶が残っていることに気づき始めたのではないか。  思い返せば、大人の宗輔の様子が変わっていったのも、少年宗輔が不幸になっていったころからだった。 「結太」  宗輔は結太から顔をそむけたまま言った。 「お前の言う通りだ。憶えている。全部、頭の中に残っているんだ。だから嫌なんだ。子供の俺は勝手に言いたいことをお前に言う。このままいたら、俺はお前に見られたくないものまで見られてしまうし、知られたくない弱い自分もすべてお前にさらけだしてしまう。それが、俺は耐えられん」 「……」 「もう、これ以上、俺の中に入ってきて、かき乱さないで欲しい」 「……宗輔さん」 「そういう訳だ。だからもうここへはこない。悪かったな。手間をかけさせて。俺にかかった費用はそのうち口座にでも振りこむから」 「そんな」  宗輔は荷物を抱え直すと、弱い自分を恥じるかのように唇を引き結び、ドアをあけてでていってしまった。  バタン、と音がして無情にも扉はしまる。  残された結太は、唖然としながら、立ち尽くすしかなかった。

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