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第52話 少年宗輔

 その日は一日中、落ち着かない思いで仕事をした。  午後六時に降園し、家に帰って夕食の準備をしながらも、宗輔のことが気にかかってしょうがなかった。 「ちゃんとご飯食べたのかな……」  いきなり十四年後の世界に現れて、少年宗輔は戸惑ったりしていないだろうか。彼は多分、実家にいるのだろうけれど、助けてくれる人が誰かそばにいるのだろうか。 「宗輔さんの性格からいって、簡単に誰かに頼るとは思えないけど。でも事務所の人とかにお願いしてるかもしれないしな。だったらいいんだけど」  抜かりなく対策を考えている気もするが、やはり心配ではある。 「ちょっとだけ、様子を見にいってみようかな」  それで大丈夫そうなら、帰ってこればいいのだし。  結太は作っていた夕食を密封容器につめた。これを持っていけば、少年宗輔に会う口実にもなる。荷物を車にのせて、宗輔の実家に向かう。時刻は午後八時をすぎていた。  宗輔の家に着くと、大きな屋敷には明かりはひとつもついていなかった。 「あれ? 留守なのかな」  どこか、違う場所で泊まることにでもしたのだろうか。そういえば一度もきいたことはなかったが、宗輔には恋人とかはいるのだろうか。  恋人の可能性を考えると、胸がギュッと痛んだ。 「そうか、恋人のところかもな。恋人に事情を打ち明けて、彼を預けたのかも。だったら俺んちよりも寛げるか」  しょげながらも、一応玄関扉の横についていたインターホンを押してみる。かるい鈴の音が、家の奥のほうで小さく聞こえた。と思ったら、ガタンという音が響いてきた。 「――助けてっ」 「え?」 「誰か、いるのっ? 助けて、お願い、助けてくださいっ」  家の中から声がする。あれは、男の子の――少年宗輔の声だ。 「ええっ?」  古めかしい引き戸の玄関扉には、ガラスがはまっている。その向こう側に、橙色の明かりがうっすらと見えた。 「宗輔さん? いるの? え? どうしてっ」  結太は家の中に声をかけた。同時に戸を横に引いたが、鍵がかかっているのか動かない。ガタガタと揺らしながら内側に呼びかけた。 「宗輔さん、どうしたの? いるの? 玄関、あけられる?」 「助けてよっ、動けないんだよおっ」  泣いているらしい。悲痛な叫びに、結太は混乱した。

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