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第53話

「ちょ、ちょっと待って、待ってて」  家の周囲をぐるりと回って、入れる場所はないかと探してみる。けれど縁側は雨戸がしまり、他の窓もすべて施錠されていて、入れそうな場所はどこにもなかった。 「宗輔さん、このままじゃ入れないから、鍵屋さん呼ぶけど、いい?」 「呼んで、呼んでください、お願いっ」  涙声で訴えられて、結太は鍵屋に電話をかけてすぐにきてもらった。  さほど待たずにやってきた鍵屋は、結太が家族であることを確認した後で、年代物の玄関の鍵を開錠した。 「宗輔さんっ」  家に入り、廊下の電灯を点ける。  すると北側の奥から「こっちですっ」という声が聞こえてきた。急いでそちらに走っていくと、何と宗輔は、トイレの中にしゃがみこんでいた。 「え……」  見ると、手首が、ドアの内側のノブと手錠でつながれている。 「こ、これは」  足元には菓子パンの袋と紙パックのジュースがひとつずつおかれていた。そして一枚の手紙。『朝まで我慢すること。そうすれば元に戻れる』とある。 「そんな、ひどい」  自分自身に対することとはいえ、あまりにも無造作で冷たい扱いに結太はショックを受けた。 「待って、今、解放してあげるから」  玄関先に控えていた鍵屋を呼んで、手錠も外してもらう。不審そうな様子をみせる鍵屋には、「大丈夫ですから」と説明し、料金を払って引き取ってもらった。 「怖かったでしょう。よく我慢したね」  助けがきた安心感からか嗚咽をもらす宗輔を抱きしめて居間へといく。ソファに腰かけさせると、少年宗輔はやっと少し落ち着いた。 「もう大丈夫だから、安心して」 「お兄さんは、誰ですか」  泣きながらきいてくる。いつもの質問だった。 「俺は、宗輔くんのお母さんの親戚です」 「……母さん」  宗輔が、結太の腕の中でわなないた。 「母さんが、怒って、俺をつないだんだ。眠っている間に。もうずっと、ここにひとりでいろってことなんだ……」 「ええ? お母さんはそんなことしないよ」 「だって、さっき、すごく怒ってたから」 「怒った?」  宗輔が鼻をぐすぐす言わせたので、結太は近くにあったティッシュケースを手渡した。宗輔がそれで鼻をかんで涙を拭う。 「……俺が、結太って子に、死ね、って言ったから」 「ああ」  そうか。では、今日の宗輔は、結太の家にきた直後の彼なのだ。

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